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私のやんごとなき王子様 土屋編

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「土屋先輩の世界が好きなんです。土屋先輩の見ている世界を、私も一緒に見たいんです。感じたいんです。土屋先輩はいつも私に新しい刺激を下さります……だから!」
「そうだね、僕は君に新しい刺激を与えているんだろうね。じゃあ君は? 君は僕に何を与えてくれるの? 貰っているばかりで何も返さないような礼儀知らずには用は無いよ、僕は」
「私は……私の差し出せるものなら何でも、土屋先輩に捧げるつもりです」
「へぇ」

 えーっ! ちょっと、その発言はどうなの!? 水原さんーーっ! なんだか見ているこっちまで緊張してきた。って、私は一体何をやってるんだろう! 盗み聞きだなんて最低だ!

「今すぐに返事はいりません。少し、私の事を考えてもらえれば……それだけでも嬉しいです! 少しの間でいいんです。考えてくれませんか? 私があなたと一緒にあなたの鮮やかな世界の片隅にでも存在して良いかどうか」
「……僕はね」

 土屋君が何か言おうとしたそこまで聞いて、私はゆっくりとドアから離れた。
 一歩二歩後ろに下がり、音を立てないように階段へと向かう。
 それ以上二人が話している所を見るだなんてとてもじゃないけどできなかった。
 土屋君の答えなんて聞けるはずもない。

 今来た階段へと逆戻りする最中、立ち聞きをしてしまった事に対する罪悪感と、水原さんの土屋君に対する真剣な想いが容赦なく襲って来て、胸が苦しかった。

 水原さんの方が、私なんかよりはるかに芸術的だし、二人はきっとすごくお似合いなんだろう。でも私は……。

 なんで土屋君が一緒に作業する事を認めてくれたのかも分からないような人間だ。特に芸術家の家庭の娘という訳でも無い。だけど……それでも……

 それでもやっぱり私も土屋君の事が好きなんだ。

「はあ……」

 無意識に溜息がこぼれた。
 土屋君はなんて答えたんだろう? そんな事が気になって仕方が無い。

 階段を前にすると私は両足に思い切り力を込めて、一気に駆け上った。

 こんな気持ち、走ってなくなれ!