私のやんごとなき王子様 土屋編
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土屋君はひどく不機嫌そうな、納得いかないといった顔でベンチに座っていた。
私達はそんな土屋君を囲むように立って、お互いの顔を見合わせため息を吐く。先ほどから先生が諭してるけど暖簾に腕押し。一言謝ればいいのに、どうしてこう変わり者というか偏屈? なのかな。
「いいか、お前がどう思おうと勝手だが、俺達はお前の事を心配して止めたんだぞ?」
「言われなくても分かっています。はあ……これでもう二度とあの美しさを体にも脳にも取り込むことは出来なくなってしまった。なんてもったいないんだ――」
土屋君は本気でショックを受けているのか、すっかり項垂れてしまっている。
「はあ〜〜〜。もういい! おい、小日向!」
先生はとうとう説教を諦めたらしく、ガシガシと自分の頭を掻くと私を見た。
「え? あ、はい?」
「お前はこいつと同じ大道具の担当だ。だからこれから合宿終了まで、こいつがバカな事をしないかしっかり見張ってろ」
「ええっ?!」
嘘でしょ!? 自分の仕事も山ほどあるのに、土屋君をずっと見張ってろって? こんな突拍子も無い事を平気でやったり言ったりする人なんだよ?
「先輩、僕からもお願いします。土屋先輩が心配です……」
「じ、潤君まで……」
そんな顔されたら無理ですなんて言えないじゃない。
――――どうしよう……
私が迷っているほんの数秒の間に、土屋君がベンチから立ち上がって言った。
「見張りだなんて必要ありませんよ、先生。僕は僕の感じるままやりますから。小日向君、君は僕が言った指示した通りに描いてくれれば良いのさ。なぁに、簡単な事だよ。それに僕は僕の芸術の為に生きている。君たちににはおよそ理解出来ないだろうけどね」
その言葉に、私はまた腹が立った。だって、そんな……そりゃ私には崇高な芸術なんて分かりはしない。でも、それでも土屋君を心配しているこの気持ちに嘘はないのに。
そう思ったら、また口が勝手に動いた。
「どうしてそう言う言い方するの!? 感じるままにやる? 自分の芸術のためなら命を落としてもいい? 私には本当に理解出来ないよ……。それでもっ! それでも私は少なくとも土屋君の役に立ちたいって思って大道具を選んだのに、そんな風に言われたら……」
作品名:私のやんごとなき王子様 土屋編 作家名:有馬音文