私のやんごとなき王子様 土屋編
フェリーに乗ってからは大道具担当に用意された客室内で荷物の積み忘れ等ないか再びチェックをして、その後はデザイン面での話し合い何かを皆でしていた。
……はずだったのに、いつの間にか土屋君がいない。
土屋君は性格に多大な問題があるけれど、それでも大道具の要の存在。私はチームのみんなに探しに行ってくると告げ、急いで客室を飛び出した。
一体どこへ行ってしまわれたのよ、あのお方は……!
「せせせせせんぱ〜〜い! なにしてるんですかーーーっ」
土屋君を探し回って歩いていると、甲板の方から聞き覚えのある声がする。あれってもしかして?
近付いてみると声の主はやっぱり潤君だった。「潤く……」と声をかけようとした次の瞬間、私の目に飛び込んできたのは――
「きゃあーーーっ! つ、つ、つ、土屋君! 何してるのーーーっ!」
思わず大きな声が出た。だって土屋君ったら柵を乗り越えて今にも海へと飛び込もうとしているんだもの!
「こっ、小日向先輩〜〜〜っ!」
私に気づいた潤君が泣きそうな顔でこっちを見てきた。私は慌てて二人の元へと近付いて行く。
「一体どうしたの!?」
「先輩が……、土屋先輩が……。この海の光は素晴らしいから、是非とも体に染み込ませたいとか言いだして」
「はぁ!?」
「僕……本当にどうしたらいいか……」
潤君は完全に涙目だ。土屋〜〜〜っ。思わず心の中で呼び捨てにした。
「潤君、私がなんとか話してみるから、潤君は先生を呼んで来てもらえる?」
私がそう言うと、心底困っていたであろう潤君の顔がパアッと明るくなった。
「はいっ! 真壁先生を呼んできます!」
そう元気に返事をし、潤君はパタパタと駆けて行った。……さて。
作品名:私のやんごとなき王子様 土屋編 作家名:有馬音文