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私のやんごとなき王子様 土屋編

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「遅い」

 改札を抜けた先には土屋君が仏頂面で待ち構えていた。

「美羽、私さ配置担当の子に用があるから先に行ってるね〜! また後でね〜!」

 さなぎは‘あの’土屋君が待ち構えていたのを見るなり、逃げるように去って行った。うぅっ、薄情者〜〜っ!
 ……でも仕方ないよね。私だってちょっと戸惑ってるんだから。これから合宿で1週間も一緒だっていうのに、本当に大丈夫かな。

「随分遅かったじゃないか」

 そんな事を考えていると、土屋君から再び声を掛けられた。

「遅いって……。まだ集合時間までには20分もあるんだよ?」
「はーっ」

 私の言葉を聞くと、土屋君はこれみよがしに大きくため息をついた。
 なっ、なんなのよー……!

「まぁ、いいよ。僕より遅く来た事は特別に許してあげよう」
「は……はぁ」

 いつからそんな風に決まったわけ!? はーっ、やっぱり土屋君って疲れちゃうな。

 そんな事を思いながら、これから乗るフェリーに視線を馳せる。
 目の前にある大きなフェリーは青空をバックに悠然と佇んでいる。
 毎年理事長がチャーターしてくれるこの大型フェリーに乗って、理事長所有の島へ向かうのだ。
 港に勢揃いした我が星越学園の全校生徒。とは言っても生徒数が少ないうちの学校だから整列した様子に圧倒されるってことはないんだけど。

ふと誰かの手が私の手に触れた。

「行くよ。もうすぐ校長の挨拶が始まる。いつまでもこんな所で突っ立っているわけには行かないんだからね」

 土屋君が……私の手を引いてる?
 なんだか凄く意外な展開に脳みそが上手くついていかない。
 急速にふわふわとした膜が思考に絡みついてきて、思わずぼぉっとしてしまう。
 そんな私にはお構いなしで、土屋君は大道具担当の集合スペースへと私を導いた。

 ……土屋君って不思議な人だなぁ。
 なんて呆けていると、校長先生の挨拶が始まった。

 校長先生の挨拶はいつもすごく簡潔で、長ったらしくないから好きだ。
 最高の演劇祭になるよう、全校生徒力を合わせて怪我が無いように頑張って下さい。という言葉を最後に、乗船が始まった。