恋愛風景(第1話~第7話+α)
番外.140字シリーズ-3
〈21〉(10.8.27:「深夜のプール」で登場人物が「手を繋ぐ」、
「ハンバーガー」という単語を使ったお話を考えて下さい。)
夏休みの学校、合宿最終日。
消灯後に抜け出してプールに行った。
「もうすぐ引退だね」
「うん、…大学では水泳する?」
「どうかな…」
迷う口調に切なさがこみ上げて、繋いだ手を握りしめる。
一緒に歩いてきた道の先は、どこかで分かれてしまう?
言葉をハンバーガーと一緒に飲み込んだら、少し涙が出た。
〈22〉(10.8.28:「早朝のベッド」で登場人物が「手を繋ぐ」、
「星座」という単語を使ったお話を考えて下さい。)
体を起こすと、隣の妻が寝返りを打った。
彼女は帰りが深夜の仕事。僕は始発の頃には起きて出かける。
だから今は、平日に顔を見られる貴重な時間だ。
傾けた白い首に、小さな黒子が星座のような並びで3つ。
指先で触れた瞬間、目を開けた妻が微笑んで、僕の手を握る。
「いってらっしゃい」と唇が動いた。
〈23〉(10.8.29:「早朝の遊園地」で登場人物が「落ちる」、
「花束」という単語を使ったお話を考えて下さい。)
開園前の遊園地。
担当する遊具を点検していると、階段下に足音が止まった。
笑顔で見上げて手を振る彼女にこちらも振り返す。
夏から付き合い始めた、清掃担当の年上の彼女。
慌てて階段を走ったら足を踏み外し、最後の数段を落ちた。
「大丈夫?」と心配そうな彼女に花束を差し出す。誕生日おめでとうと。
〈24〉(10.8.30:「深夜のベッド」で登場人物が「見上げる」、
「花」という単語を使ったお話を考えて下さい。)
知らない間に転寝して、気づくと0時過ぎ。
傍らのベッドで眠る君は私を見上げる格好。…起きている時でも同じ。
私よりずっと背の高い君が、今は、まともに体を起こすことさえできない。
枕元には沢山の花。枯れても減ることのない花の数々。
花を買うように君の命も買い足せるなら、どんなにいいだろう。
〈25〉(10.8.31:「夜の遊園地」で登場人物が「嘘をつく」、
「噂」という単語を使ったお話を考えて下さい。)
ナイター営業の遊園地。夜と光が作り出す空気感に高揚する。
「次はうちに行こっか」
「噂になっちゃうよ?」
ともにバイト先はこことは別の遊園地。一緒に行けば絶対バレるだろう。
「…やっぱ噂になるの迷惑?」
「ちょっとね」
答えに落胆した直後、
「嘘だよ」
と、彼女は光に負けない輝いた笑みを見せた。
〈26〉(10.9.1:「深夜の神社」で登場人物が「密会する」、
「魚」という単語を使ったお話を考えて下さい。)
鳥居の脇に立つ私に足音が近づき、止まる。
「…何してんの」
午前0時前の近所の神社。
目を丸くする彼の、ランニングコースで初めて待ち伏せた。
密会みたい、と闇の中でふと思う。
「明日、引っ越すの」
「知ってる」
「…話、聞いてくれる?」
魚が泳ぐように、伸びやかに走る彼の姿が、とても好きだった。
〈27〉(10.9.2:「早朝の廃墟」で登場人物が「ケンカをする」、
「氷」という単語を使ったお話を考えて下さい。)
呼びかけに、彼女は振り返ろうともしない。
旅行先で朝っぱらから喧嘩した挙句、慣れない城址なんかで迷ったんじゃ間抜けすぎる。必死に追いついて彼女の手をつかんだ。
顔は真っ赤なのに、手は氷みたいに冷たい。
秋の初めでも北の朝は空気が突き刺さるようだ。
もがく彼女を引き寄せ、抱きしめて温めた。
〈28〉(10.9.3:「夜のプラネタリウム」で登場人物が「泣き出す」、
「氷」という単語を使ったお話を考えて下さい。)
夏休み恒例、子供向けの投影会。ナビ役は慣れているけどやはり喉は渇く。
解説の合間に氷水で潤しながら1時間、終了後は屋上に出て本物の星空観賞。
子供たちの後に続いて出ていく刹那、君が振り返った。
涙を浮かべた目で「お疲れさま」と唇だけ動かし、笑う。
今日で、このプラネタリウムは閉館される。
〈29〉(10.9.4:「昼の路地裏」で登場人物が「見つめ合う」、
「コーラ」という単語を使ったお話を考えて下さい。)
外回り途中、ビルの陰で休憩。
差し出された缶コーヒーの冷たさに、一息つく。
後輩は近頃、よく気が回るようになった。当人はコーラを美味しそうにあおる。
…こうして見ると背が高いなと思った瞬間、目が合った。
予期せぬ真剣な表情に言葉をなくし、見つめ合う。
「え、と」
「次の休み予定ありますか?」
〈30〉(10.9.5:「深夜の神社」で登場人物が「噛み付く」、
「花冠」という単語を使ったお話を考えて下さい。)
大晦日、神社の屋台でバイト。年越しの瞬間が近づき人出は最高潮。
隣で客を捌く先輩に怒鳴られる。
「とろい、さっさと焼く!」
親方の娘でもある彼女は、そばの量が少ないと噛み付く客にも動じず対応する。
冠のように花柄のバンダナを巻いた、凛とした横顔を見ていると、つい手が遅くなってしまうのだ。
作品名:恋愛風景(第1話~第7話+α) 作家名:まつやちかこ