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私のやんごとなき王子様 波江編

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 ザザー ザザー

 波の音だけが耳に届いて心地良い。

「僕、星越学園に入る事が小学校からの夢だったんです」

 ぽつりと潤君が話し始める。

「芸能界に憧れてとかでは無いですよ? 正確には理事長に憧れたんですけど」

 小さく笑った。

「テレビで星越の理事長の特集みたいなのをやっていた時があって、その時にすごく立派な人だなって――本当に単純な感想なんですけど、そう思ったんです。きっとこの学園に通う人達の心も綺麗なんじゃないかなって。小学生だから単純ですよね、ホント」

 潤君はそう言うと少しだけ目を伏せたけれど、何となくその気持ちは分かるような気がした。あの理事長を見たら、誰だってきっと憧れる。

「それで受験して何とか合格出来て、初めて学園に来た時――感動でどうして良いか分からなくて。生徒数は少ないのに学園は広くて……戸惑ってばかりの僕を、小日向先輩が優しく案内してくれたんですよ」
「だって私、その日の担当だったから」

 当時の事を思い出す。新入生達が初めて学園を訪れてからの3日間、星越ではあちこちに案内役が配置される。少しでも早くこの学園に馴染めるようにとの、理事長の考えなのだ。

「でも、僕は小日向先輩とあの日出会えて本当に嬉しかったんです。小日向先輩、僕に『分からない事があったら、今日じゃ無くてもいつでも何でも気軽に聞いてね』って言ってくれたんですよ」

 そんな風に言った気もする。

「よく覚えてるね」
「もちろん! 僕にとってはすごく大切な思い出ですから」

 潤君が笑ったから、私も笑った。今度はすごく自然に笑えた気がする。

「それで僕はその言葉通りに、何かと先輩に教えてもらいに行きました。先輩はいつでもそんな僕に優しくて……後輩が出来たら僕も先輩みたいになりたいんです」
「潤君ならなれるよ。私なんかよりずっと優しい先輩に」

 ふいに寂しさを感じた。潤君が‘先輩’になる頃には、私はもうこの学園にはいない。