私のやんごとなき王子様 波江編
「先輩……僕達、先輩が卒業しても会えますよね?」
私の寂しさにシンクロでもしたかのように、潤君がぼそりとこぼした。
「会えるよ……潤君が会いたいって思ってくれれば」
「本当ですか? 僕はきっと卒業してからも、こんな風に先輩の事を何かと誘うと思いますよ? 一緒に過ごして……くれますか?」
「うん……」
潤君の声が震える。それが水原さんを連想させて、私も小さく頷いた。きっと私の声も震えている。
「少し、風が出てきましたね。体が冷えてしまわないうちに帰りましょうか?」
「うん、そうだね」
立ちあがって服についた砂を手で払う。
「潤君、誘ってくれて有難う」
「こちらこそ、付き合って下さって有難うございました」
ぺこりと頭を下げた潤君の左手を、私は右手でそっと握りしめた。
潤君は一瞬驚いた顔をして、その後ゆっくりと私の右手を握り返してくれた。
そのまま手をつないで宿舎までの道を歩く。
私は潤君に似合う人間じゃないかもしれない。それでも私が潤君を好きだというこの思いは、決して変わらない。
波の音が少しずつ、遠ざかっていた。
作品名:私のやんごとなき王子様 波江編 作家名:有馬音文