私のやんごとなき王子様 波江編
昼の休憩時間、食堂でぼんやりと料理を前に手をつけずにいた私に気付いたさなぎが不思議そうに尋ねて来た。
「どうしたの、美羽? 全然食べてないけど」
「えっ? あ、ううん。なんでもない」
「まさかあんたまでダイエットとか言うんじゃないでしょうね? 体力がないと舞台なんて務まんないでしょ!? 倒れても知らないからね、しっかり食べなよー」
「あはは。食べるよ」
たぶんさなぎは私の様子に気付いている。昨日水原さんの告白を聞いて部屋に戻った時からずっと気持ちが沈んでいたし、さなぎは何度も私に話し掛けようとしてやめてたから。
それでも何も言わないのは、きっと切り出すタイミングを計っているからだと思う。
これ以上さなぎに心配かける訳にはいかない。合宿に来てからの私は、本当にさなぎに頼りっぱなしだもん。
そう、これは私自身の問題。考えた所で水原さんが潤君の事を好きで告白したという事実は変わらないし、私が潤君の事を好きだという事も変わらない。それならば劇でミスをして潤君や皆に迷惑をかけるより、代役だったけど何とか形になって成功したなって喜んでもらえた方が全然いい。
「……うん、そうだよ」
一人頷いて、私は目の前の料理に手をつけた。
「お、急に食欲大魔王になったな」
「だって食べないと、体力使うもんね」
さなぎも笑ってる。良かった。
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午後からは気持ちを入れ替える事に成功したおかげで、何とか演出からも駄目出しをされずにスムーズに演じる事が出来た。
私自身の気持ちも少しずつ落ち着いてきて、演技の方も何とか形になりそうな予感がする。
夕闇が室内を浸食し始めて、部屋にはもうほとんど人が残っていない。私も荷物を持って部屋を出ようと歩き出した。
作品名:私のやんごとなき王子様 波江編 作家名:有馬音文