私のやんごとなき王子様 波江編
「はい、潤。お疲れ〜」
「え、何? 水原のおごり?」
「そ、たまにはねー」
「珍しいじゃん。サンキュ」
聞こえてきたのは潤君と水原さんの声だった。
潤君、同級生とはあんな風に喋るんだよね。いつも私に見せてくれている顔とは違うそのラフさに、胸の奥で何かがズキンとはじけそうになる。
「で、何? 話って」
「うん……えーっとさ」
いけない! このままじゃ私、立ち聞きだよね! そっと階段を昇ろうとしたその瞬間――
「私ね、潤の事が好きなの」
耳に届いたその言葉に、私は金縛りにあったように動けなくなってしまった。
今……水原さん、何て……?
「え?」
私とシンクロしたかのように、潤君も水原さんに聞き返す。
「だーかーらーっ! 私は、潤が好きだって言ってるの!」
どうしよう。
心臓がありえない程にバクバクと脈を打っている。こんな事を盗み聞きしちゃったから? それとも――
それとも私も潤君が好きだから?
作品名:私のやんごとなき王子様 波江編 作家名:有馬音文