私のやんごとなき王子様 波江編
「ご、ごめんね! 私、変な事言ったかな?」
「い、いえ! そ、そういう事じゃ……こ、これは僕の問題です!」
何がどう潤君の問題なのかはよく分からなかったけど、何だか楽しそう……ではあるかな?
ふふっ、こんな風に潤君と一緒に何かをするって本当にすっごく楽しいな。
微笑みながら目線を先にやると、亜里沙様の姿が視界に入った。彼女の周りには相変わらず取り巻きが何人もいて、亜里沙様が作業をしようとするのを阻止しているのが見えた。きっと危ないから座っていて下さい、とか言われてるんだろうな。
亜里沙様も皆と一緒に料理したり海で泳いだり、本当はやりたいんじゃないかって思う。だって私だったらたとえそれが仕事のためとはいえ、行動を制限されるなんて我慢出来ないもん。
普通の高校生らしく学校に行ってお洒落して、友達と遊んで恋をして―――
「桜先輩、大変ですよね」
私の視線の先に気づいた潤君が小さく零した。
「うん……私、少しでも力になれたらって思うけど……」
私も小さく答える。
「小日向先輩ならきっとなれますよ! オディール役として」
「そうかな?」
「そうですよ!」
潤君の励ましを受けると、なんだか力が湧いてくる気がする。
予想もしなかった出来事で急遽オディールという大役をすることになったけど、潤君もこうして応援してくれるし、あの亜里沙様が私を押してくれたのだし――私もそれに答えたい! だからしっかりご飯食べて、睡眠をとって、台詞をしっかり覚えなきゃ。ヘタクソには変わりないんだから、頑張ってせめて皆の足を引っ張らないように演じるんだ。
隣にいる潤君の心地よい声を聞きながら、私は今まで感じた事のない不思議な気持ちに胸を躍らせた。
作品名:私のやんごとなき王子様 波江編 作家名:有馬音文