私のやんごとなき王子様 波江編
星越学園の図書室は一つの大きな図書館のようになっている。とても広い館内には大抵の本は勿論、DVDなどの映像作品も揃っている。
「何を探してるの?」
小さな声で波江君に尋ねる。
「白鳥の湖のDVDと、白鳥の湖のシーンが描かれた絵画の入った画集を何点か」
潤君も小さな声で返してくれた。
なんでもバレエ的な動きのしなやかさも、演出家はこの舞台で表現したいらしいのだ。そしてそのイメージを掴むためにDVDや画集を必要としているらしい。本当に本格的なんだなぁ……と今さらながらに実感する。
まだ決まっていないキャストは、この後4時30分から、くじと投票で決定される。私なんかセリフもないような役だろうけど、それでも他の皆の足を引っ張るような事だけはしたくない。
たくさんの棚の中から目当ての棚を探し出すだけでも一苦労だ。それでも何とか分類表を見ながら、画集のある棚へと辿り着いた。
「それじゃ、色々見ていこうか」
「はいっ!」
棚には上から下まで様々な画集が並べらている。
「よし」
私は一つ息をはくと、設置されている梯子に登った。
「先輩っ、上の方は僕が見ますっ」
下から小声で潤君が声をかけてくれる。
「大丈夫、大丈夫―っとっと……!」
潤君の方を向こうとした瞬間にバランスを崩してしまった。っていうかこれ――
「きゃっ!」
「先輩!」
ドンッ!
「〜〜〜〜〜っ」
声にならない声で私は呻いた。でも思ったより痛くない……? 思わず瞑ってしまった目を開くと、私は誰かに抱きとめられていた……ってコレって!?
「潤君?!」
思わず大きな声が出た。図書委員が迷惑そうに発した咳払いが遠くの方で聞こえた。でも……でも……これって。
「大丈夫ですか? 先輩」
頭の上の方から潤君の声がする。そうだ、やっぱり――私、潤君が受け止めてくれて……っていうか今、しっかり抱きしめられてるっ。
作品名:私のやんごとなき王子様 波江編 作家名:有馬音文