私のやんごとなき王子様 波江編
「え? あ……うん、大丈夫」
「本当に? 気分悪いなら少し自室で休んできたら? まだ当分は取材で練習にならないと思うから」
心配そうに声をかけられた私の視界がなんだか歪んだ。ダメだ、泣いたりしちゃ……。
「先輩っ! 大丈夫ですか? 僕、送りますっ」
ふいに右手に温かいものが触れた。
ふと視線を向けると、そこにあったのは――
「潤君……?」
どうして潤君が……? いつの間に?
戸惑う私の手を引くと、潤君は廊下に向って歩き出していた。
「潤君? 取材は?」
「風名先輩達にお任せしてあります」
「……そんな、潤君にだって……チャンスなのに」
何を言ってるんだろう。自分で自分が分からなかった。
作品名:私のやんごとなき王子様 波江編 作家名:有馬音文