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私のやんごとなき王子様 波江編

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*****

 土屋君はひどく不機嫌そうな、納得いかないといった顔でベンチに座っていた。
 私達はそんな土屋君を囲むように立って、お互いの顔を見合わせため息を吐く。先ほどから先生が諭してるけど暖簾に腕押し。一言謝ればいいのに、どうしてこう変わり者というか偏屈? なのかな。

「いいか、お前がどう思おうと勝手だが、俺達はお前の事を心配して止めたんだぞ?」
「言われなくても分かっています。はあ……これでもう二度とあの美しさを体にも脳にも取り込むことは出来なくなってしまった。なんてもったいないんだ――」

 土屋君は本気でショックを受けているのか、すっかり項垂れてしまっている。

「はあ〜〜」

 先生が大きくため息をついた。そりゃ呆れるよ……どうしたらいいのかな。

「土屋先輩……僕、土屋先輩の絵が好きです」
 
 ふいに潤君が声を上げた。

「だからこそ土屋先輩に危ない事はして欲しくないんです。だって土屋先輩の新作が見られ無くなるなんて、悲しすぎますから!」

 潤君のその言葉に俯いていた土屋君が顔を上げる。これだ――!

「そうよ、土屋君! 土屋君に何かがあったら芸術界の大きな損失だよ! 土屋君には安全かつ健康にたくさんの絵を描いて貰わなくっちゃ!」

 私もそう言うと、いよいよ土屋君の目は輝きだして颯爽とベンチから立ちあがった。

「あっはっはっは! 君たち、中々分かっているじゃあないか! うん、良いね。実に良いよ! 僕はインスピレーションが舞い降りてきたから、これで失礼するよ。 あっはっはっは!」

 何がそんなにおかしいのか、土屋君は高笑いを響かせながら船室の方へと去って行った。

「……お前たち、凄いな」

 土屋君の後ろ姿を見送ると、先生が溜息交じりに私達を称賛した。
 潤君と私はお互いの顔を見合わせ、その後先生を見つめると――3人ともふいに笑いが込み上げて来て、一斉に吹き出してしまった。

 とにかく土屋君が無事で良かった。
 私達はほっとしながら、船室へと戻って行った。




 船室で再び台本のチェックをする。
 ふと窓の外を見ると、遠くに島が見えた。
 トクンと胸が鳴る。


 もうすぐ到着するんだ。高校生活最後の合宿が、本当に始まるんだ――――