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私のやんごとなき王子様 風名編

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 最終幕――――
 
 雷鳴轟く湖の側の廃墟へと、オデットの友人達が慌てて逃げ込む。そこへジークフリート王子が取り乱した様子で走って来た。

「ああ、オデット! 許して下さい!」

 王子の姿を見たオデット姫は悲しみに溢れたその美しい顔を歪め、ジークフリートから逃げる。

「私にはもう、あなたを許す力がありません。すべては終わったのです」

 廃墟へと走るオデット。それを追いかけるジークフリート……
 
 しかし、急に王子は立ち止まった。
 台本では王子がオデットを捕まえ、二人で湖に身を投げるシーンのはずなのに途中で足を止めたのだ。

 緊張がスタッフに走る。

 観客も異変に気付いたらしく、その場にいた全員がじっと見守る中、ジークフリートである風名は地に崩れ、悲しみに両肩を震わせながら叫んだ。

「オデット、僕の愛しいオデット! どうか愚かな僕を許して下さい! ―――いいえ、二度と許さないでください! 僕は過ちを犯しました。あなたを愛すると言いながら、別の姫を選んだのです!! あなたを裏切ったのです! ……滅びるのは僕一人でいい、あなたは、例えどんな姿であろうと生き続けなくてはいけません! ああ、さようならオデット!!」


 ザザーーーーー!!!!

 湖の水が氾濫する轟音と同時に舞台は暗闇になり、廃墟から悲しげな白鳥達の歌声が響いた。
 そしてしばらくすると闇は晴れ、静かで美しい湖面に白鳥達の群れが現れた。
 その白鳥達の姿はどこまでも透明で、清らかだった。

 私は客席や舞台袖から沸き起こる大喝采を遠くに聞きながら、しばらく呆然と立っていた。
 知らずに握っていた幕は汗で湿気を帯びていて、ゆっくりと降りて行く緞帳(どんちょう)がぐにゃりと歪んで見えた。

 私は泣いていたのだ。



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