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私のやんごとなき王子様 風名編

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「俺が合宿行く時船の中で言った言葉、覚えてない?」

 もごもご口の中で不安を呟いていた私に微笑む風名君に一瞬見蕩れ、私はあの日の事を思い出す。
 風名君や亜里沙様の演技力に圧倒された私は、オデット姫の友人役というちょい役にも関わらず、自分があまりにも場違いだと落ち込んだ。そんな時に風名君と利根君が励ましてくれた。

 風名君は、

『出来ないとか出来るとか、上手とか下手とか関係無く、俺達と一緒に演技を楽しもうよ』

 そう、優しく言ってくれたんだ。

「演技を、楽しむ―――」

 ぼそり呟くと、風名君はうんと力強く頷いた。

「そう。俺は小日向と一緒にこの高校生活最後の演劇祭を楽しみたいって思ってる」
「風名君……」
「間違えたっていいさ。俺だって、ホラ―――」
「っ!?」

 そう言って風名君は私の手を取り、自分の胸に当てた。
 一瞬驚いたけど、すぐに私の手のひらに風名君の心臓の鼓動がドクドクと伝わって来て、その顔を思わず見上げてしまった。

「はは、実は俺もすっげー緊張してんの。人には大丈夫とか楽しもうとか言ってるくせにさ」

 ――同じなんだ。

 風名君も、私と同じように緊張するんだ。
 そう思ったら急に気持ちが軽くなった。

「ありがとう、風名君。私、頑張る……精一杯楽しめるように、全力で頑張る!」
「ああ、頑張ろうぜ」

 互いに顔を見合わせて笑い合うと、開演のブザーが鳴り響いた。
 驚く程落ち着いた私の心臓は、すごく現金なやつだ。

 だって、大好きな人が自分と同じ気持ちでいてくれるというだけで、こんなにも舞台に立つのが楽しいだなんて思えるんだから。