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私のやんごとなき王子様 風名編

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「亜里沙様っ!」

 宿舎へ戻る途中の林道で、亜里沙様に追いつく事が出来た。声を掛けたものの一体私は何を言うつもりなの?
 私の呼びかけに足を止め、こちらを振り返った亜里沙様の姿はいつもと変わらない凛とした涼やかさがあった。

「小日向さん、どうしました?」
「いえ、あのっ……」

 口ごもる私に、亜里沙様はきゅっと唇を結び瞳を震わせた。すうっと一筋、涙が零れ落ちた。
 初めて見る演技ではない亜里沙様の涙は、まるで真珠のように輝いていた。

「私は玲君の事が好きです。この気持ちは変わりません……私の事を惨めと笑いに来たのでしょう?」
「違います! 私も、風名君の事が好きだから……亜里沙様の気持ちが分かるんです!」

 必死にそう言うと、亜里沙様はハンカチで涙をぬぐい、その長い髪をなびかせて私に背を向けた。

「分かっていませんわ、小日向さん。あなたには分かりません……でも、演劇では負けませんから。ごめんあそばせ」

 その瞬間一際大きな花火が空に打ち上がった。

 私は花火の音と大きな歓声を遠くに聞きながら、花火の光に照らされ歩き出した亜里沙様を追いかける事が出来ず、その場にただ立ち尽くしていた。
 私には分からないってどういう事? 分かるよ。だって、好きだけどずっと一緒にいる事は出来ない、思いを伝える事も出来ない弱い私は、亜里沙様よりも全然駄目なんだから。望みが薄いって、分かってるから。

「小日向!」
「――風名君」

 私を追いかけて来た風名君に、私は思わず言いそうになった。
 あなたの事が、私も好きなの! って……。でも言えない。言えないんだ――

「どうした? 大丈夫か?」

 苦しい思いが顔に出てしまったみたいで、風名君が心配そうに私の顔を覗き込んだ。

「大丈夫」
「もう花火終わりみたいだ。戻ろう」
「……うん」
「小日向、俺さ……あ、いや、何でもない―――」

 途中で言うのをやめてしまった風名君を見上げ、私は頭を下げた。

「さっきはごめんね。風名君の問題なのに、口出しして」
「いいんだ」