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私のやんごとなき王子様 風名編

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「ここから海の中をちょっと入って行かないといけないんだけど……」

 岩と海の境界まで来ると、風名君が岩の向こうを覗き込んでため息を吐いた。

「この時間は満ち潮みたいだな」
「歩いて行けないの?」
「いや、大丈夫――あ、そうだ」

 急に何か思いついたらしく、その場にしゃがみ込んでほらと背中を私に向けた。

「え? どうしたの?」
「多分俺の膝下くらいまで水だと思うからさ、背中に乗りなよ」
「ええっ?! だ、大丈夫だよっ!」

 そんなの無理だよ! だって風名君におんぶなんてしてもらったら恥ずかしいし、緊張してドキドキしてるのが絶対に伝わるもん!
 全力でお断りしたけど、風名君は頑として動かない。

「せっかく風呂に入ったのに濡れたらまたシャワー浴びないといけないだろ?」
「い、いいよ。シャワーくらいさっと浴びれるから!」
「ああ〜もう、早く乗れって」
「うわっ!?」

 半ば強引に私の腕を引っ張り、風名君は無理矢理私を背中に乗せた。

 ひゃっ?

 立ち上がった風名君の肩にしがみつき、落とされないようにぎゅっと手に力を込める。
 どうしよう、私、風名君におんぶされてるよっ!

「ご、ごめんね……?」

 歩き出した風名君に取りあえず謝る。

「なんで小日向が謝るんだよ? 誘ったのは俺なんだし、おんぶするって言ったのも俺なのに、変な小日向」

 そう言って笑う風名君の背中は大きくて、私より全然背も高いから見える景色もまるで違った。
 くりぬかれたような岩の中へゆっくり足を踏み入れて行くと、波の音と自分の心臓の音がやけに大きく聞こえた。
 きっとドキドキしてるのは風名君にバレてる。
 そして時折香って来る爽やかな匂い。
 シャンプーの匂いかな? すごく風名君にぴったりの香りだ。少し甘くて、鼻孔をすうっと抜けて行くスマートな香り。
 二人だけだなんて夢のようだ。

 少し歩くと薄暗い洞窟の先に丸い光の輪が見えて、そこが目的の場所だと分かった。