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私のやんごとなき王子様 風名編

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 書店の中に入った風名君を、すれ違う人たちが確認して騒ぎ出した。
 これって、本当にヤバいんじゃないの?
 何て言うか集団パニックってやつで、一人が騒ぎ出したらあっという間に周囲に広がるんじゃないかと恐ろしくなる。
 それでも平然と風名君はエレベーターに乗り込んで、そこでもまたサインを頼まれてサインをした。

 内心穏やかでないまま目的の白鳥の湖関係の本を探している間に、とうとう私達の周りは人だかりが出来ちゃって、風名君はサインと握手攻めにあって身動きが取れない状態になっていた。
 やっぱりこうなるよね。だって今若手ナンバーワンのアイドルなんだもんね。ここに来るまでがおかしかったんだ。
 なんて考えてる場合じゃない。どうしよう、助けなきゃ……でもどうやって?

 白鳥の湖の本とDVDを抱えた腕に力を入れると、私はふと顔を上げた。
 すうっと息を吸い込み、お腹に力を入れると人だかりに向かって声を発した。

「ああ、どうして私を追い回すのです、高貴なおかた。私があなたがたに一体何をしたというのでしょう?」

 一瞬辺りがしんとなる。
 風名君も突然言い出した私の言葉に驚いていたけど、一瞬笑ってすぐに人をかき分けながら私の方へやって来た。
 こちらへ向かってきながらすぐに悲しげな表情を作り、胸に手を当てて

「私は……なんということを」

 そう私の台詞の続きを演じた。
 あまりにその声音が感情的で、私は思わず見入ってしまったけど、慌てて続ける。

「……あなたが殺そうとした白鳥は、私だったのです」
「あなたが白鳥? まさか!」

 そして風名君は私の目の前まで来た。
 と、私は直ぐさま風名君の腕をしっかり掴み、一目散に階段へと走った。
 あまりの出来事にその場にいた誰もが私達を追いかけては来なかった。
 何階か下まで降りた所で風名君の腕を放し、私はふうと息を吐いた。

「はあっ……風名君は近くの公園で待ってて。私はこれ買って来るから」
「小日向、ありがとう」
「ううん。いいの」

 しかし私ってば感じ悪かったかな。いきなり下手な芝居をやって風名君を連れ出したりして。
でも一人であんなに大勢のファンの人を相手にするなんて無謀だよね。体がいくつあっても足りない。