私のやんごとなき王子様 風名編
「私は小日向さんを推薦したいと思います。意見のある方はいらっしゃいますか?」
はあ、私がオディールの代役……って、
「えええ〜〜〜〜〜〜っっ?!」
大声を上げたのは私だけで、他の人達は亜里沙様に意見なんてするはずもなく、満場一致で私が水原さんが戻って来るまでの間オディール役を勤める事になってしまった。
「むっ、無理です、亜里沙様っ!」
当たり前よ! オデット姫の友人役ですら満足に出来なくて、やっと下手でも楽しんでやろうって思えるようになって来たのに、昇格しすぎよっ! 出来る訳がないじゃない! 何がどうなってこんな事になってるの?!
「先輩なら大丈夫ですよっ!」
「じゅ、潤君までそんな事言わないでよ! 無理に決まってるじゃない!」
「いや、俺も小日向なら出来ると思う」
後ろから聞こえた声に私はビクリと体を震わせた。振り向くと風名君が満面の笑みで立っている。
「風名君までっ……」
じいっと全員の視線が私に集中している。
……こんな状況で、しかも亜里沙様に推薦されたのに断るだなんて、恐ろしくて出来ない――
「台詞、覚えてるだろ?」
耳元で囁いた風名君の言葉に、私は驚く。はっと顔を上げるとウインクをする風名君。
覚えてる。台詞は覚えてるよ。でも……。
「取りあえず次のシーンをやってみません? ちょうどオディールが出て来る場面ですし。それに先生が戻られて最終判断を仰げばいいと思いますから」
「――わ、分かりました」
え〜い、もうどうにでもなれ!!
私は気合いを入れて自分の顔を両手で叩くと、部屋の中央へとゆっくり進んだ。
作品名:私のやんごとなき王子様 風名編 作家名:有馬音文