私のやんごとなき王子様 風名編
7日目
今日も朝からびっしり稽古三昧の日だった。
昨日海で遊んだのがいい気分転換になったらしく、皆の動きがどことなくはつらつとしている。
私はというと、実は風名君と亜里沙様の事が昨日から気になっちゃって、自分の出番のない時は練習を真面目に見てるフリして風名君と亜里沙様の様子を伺っていた。
そんな状態ではあったけど、少しずつ演じるという事に慣れて来て、すっかり台詞も他の人の分まで覚えちゃって、前に風名君が言ってくれたように楽しめている気がした。
ガタンッ!!
突然の物音に誰もが驚いてそちらを振り向く。
「大丈夫っ!?」
「おいっ、誰か鬼頭先生を呼んで来い!」
物音の次には怒声が飛んで、人の輪の中心で誰かが倒れているのが分かった。
どうしたの?! 一体何があったの?
驚きで一人落ち着かない私の元へ、潤君が近寄って来た。
「潤君、どうしたの?」
「小日向先輩、オディール役の先輩が貧血で倒れたみたいですよ」
「ええっ?!」
私は潤君の顔を見つめる。そんな大事な役の子が倒れただなんて一大事だ。
人を呼びに行っていた1年生が鬼頭先生と真壁先生を呼んで戻って来た。私はどうすることもできないので、潤君と息を飲んで離れた所から様子を見守った。
真壁先生が倒れた女子生徒を軽々と抱え、「お前ちゃんと飯食ってないだろ!」と叱りながら鬼頭先生と演劇担当の先生と一緒に部屋を出て行く。これでまた真壁先生の伝説が一つ増えた。
「だ、大丈夫でしょうか?」
心配そうな潤君の声に力なく答える。
「どうかな、酷くないといいんだけど……」
「小日向さん」
急に横から声をかけられ、私は顔を上げる。と、亜里沙様が私を手招きしていた。
「はい?」
その手招きを拒む事は出来なかった。だってあの亜里沙様が私を呼んだんだよ? すぐにその美しい姿を目の前に萎縮して立つと、今度はぐるりと辺りを見回して大きな声で亜里沙様が言った。
「皆さん、水原さんが倒れてしまわれました。すぐに戻って来られるか分かりませんから、代役を立てようと思うのですけど、どうでしょう?」
良く通る透明感のある声。
その声を聞いた全員が頷く。
作品名:私のやんごとなき王子様 風名編 作家名:有馬音文