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私のやんごとなき王子様 風名編

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「桜」
「亜里沙様」

 白く輝く肌を日傘とつばの大きな帽子でしっかりと隠したその姿に、私は思わず見蕩れる。
 珍しく取り巻きはいなくて、亜里沙様一人だった。どうしたのかな?

「お前日焼けするから部屋に残るんじゃなかったのか?」

 風名君は怪訝そうにそう尋ねた。
 亜里沙様は風名君からは微塵も目を離さず、あの美しい微笑みで答える。

「今週は演劇祭の方で忙しいですから、ドラマの事をお話しする時間がないでしょう? 今は自由時間ですから、お互い空いているうちに来週の撮影のお話をしておきたかったんですの。昨日の夜も少しお話しましたけど、やはり納得出来ない所があって……」
「ドラマの事か……」

 大事な仕事の話しだと言われ、風名君は頬を掻いた。
 確かに自由時間だから何をするかは生徒が決めることだ。亜里沙様が海に入らないのも、ドラマの打ち合わせを風名君と二人でするのも、それぞれが決めること。
 それにしても昨日の夜も一緒にいたんだ……なんかちょっと、寂しいな。

「監督とも先ほど電話でお話したんですけど、風名君の意見を聞かせて頂きたくって。お邪魔だったかしら?」

 そう言って漸く私の方をチラリと見た。
 何だろう、一瞬亜里沙様の目元が憂いと恨みを含んだような複雑な様子をしていたように感じる。――気の所為?

「いや、時間もないし、早く詰めておこう。小日向、ゴメン。ちょっと行って来る」
「ううん、私の事は気にしないで! お仕事大変だね。亜里沙様も頑張って下さい」
「ありがとう、小日向さん。それでは行きましょうか、玲君」

 私は宿舎へ向かう緩やかな坂道を昇って行く二人の姿を見送りながら、すごく傷ついていた。
 風名君が洞窟に行こうって誘ってくれたのに、私より亜里沙様の方を選ぶんだな――なんて、偉そうに思ったから。そして二人が並んで歩く姿が、ドラマ同様恋人同士みたいにお似合いだったから。

 どう考えたって亜里沙様と私じゃ亜里沙様の勝ちだもんね。私の取り柄と言えば……どうしよう、全然思いつかない。
 考えれば考えるほど亜里沙様との差は開く一方で、虚しさが体の中を走り回った。 
 あ〜もう! 風名君が優しいから、勘違いしそうになってるのよ! 私の馬鹿馬鹿!!
 激しく頭を振ってくるりと踵を返す。