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ツカノアラシ@万恒河沙
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青髭の塔

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貴方が私の事をお迎えにこられたら、すぐに私が分かるように、貴方のおうちに盗聴器と隠しカメラを用意しました。何て、私は気のつく人間でしょう。密かに自画自賛してしまいます。貴方のおうちの合鍵は私の大事な宝物です。私のお部屋の壁には一番から十三番までの金色の鍵がずらっと並んで掛けられています。貴方のおうちには、あの日貴方が連れて行ってくれましたね。どきどきして、まともに貴方と話せない私は、貴方の五メートル後を、貴方にも見えない位、小さくなってこっそりとついていくのが精一杯でした。その事を貴方は覚えているかしら。それでも、貴方は何度も振り向いては私の存在を確かめられていましたね。その貴方の優しいお心遣いに私の胸はますます高鳴ったのです。
この間、近所の方から、貴方が最近奥様に逃げられた事など貴方の事をお聞きしました。貴方が私を愛してたから、奥様が逃げられたのですね。私と貴方の間の愛には何人たりとも入れないのです。この運命の日のために、奥様は貴方のもとから逃げてくれたのですね。ああ、何たる美しくも麗しいお話。私はうっとりとしてしまいます。そういえば、明日は燃えるゴミの日です。青髭が食べ残した雌豚の腐ったお肉を捨てに参りましょう。煮ても焼いても喰えない肉の塊。冷蔵庫には、まだ少し残っています。

私は、平凡を絵に描いたような男である。私の愛する妻が突然失踪した。いつもの朝と同じように、「いってらっしゃい」と手を振りながら優しく声を掛けてくれた妻。平凡だらけの私には勿体ないような美しく優しい妻だった。夜に帰宅すると、妻の姿形が見えなかった。私には、妻がいなくなってしまうような心当たりはない。妻は出て行く時には何も持たず、両親や友人や知り合いの所にすらいない。まるで、煙のようにこの世からいなくなってしまったかのようである。いったい、どこへ行ってしまったのだろうか。私には、全く皆目がつかなない。困ったものである。
ほとほと当惑している所に、大家が大きな生ごみを捨てる所に出会う。大家は私に向かってにっこり笑うと肉が腐ってしまってねと聞いてもいないのに私に向かって照れくさそうに説明をするのだった。

お待ちしています、貴方。