紙の魚
土ぼこりをさけて、通りの端を先導しながら、少女はこっくりとうなづいた。「おっとうさんの言う通り。街道先の宿場までの一休みをするだけで、何泊もするお客さんなんど、女かよほどの年寄りくらいです。」
村の真ん中を抜ける通りこそ、何軒か店が並んでいるけれど、それ以外は、純然たる農家だけがあるようだ。行く手に畑がぽつぽつと見えてきたけれど、山の斜面に段々に作ってあって、それほど大きいようには見えない。旅人の数も多くなく、田畑も小さいのに、その割には、家々は大きく、村が豊かなのが、不可思議だった。
「今年の刈りいれはもう終わったの。」
「へぇ。少し前までは、わたしも畑を手伝ってたけど、いまはばっちゃんたちが納屋で冬ごしの準備してる。いつもはそっちにいるけど、お昼時だけ、おっとうさんの店に手伝いに行くんです。」
「村のほかの子供たちは?」
「ううん……、」と、はるはいったん言葉を切った。「まだ学校が終わってないから、そっちです。うちには読み書きが必要ないっておっとうさんが言うから。」
「あそこには、神社があるようだね。あの山の中腹あたりの森の間に、赤い鳥居が見える。」
「へぇ、もうずいぶん長く守する人もいなくて、誰も行きません。」
やがて、視界は開け、こんもりした森に周囲を囲まれた田畑がいくつも連なるところへと出た。刈りいれが終わった田んぼのわきに、黄金色の稲わらがいくつも束ねて干され、赤い腹をした蜻蛉がその先につい、と止まるのを、はるは、目を細めて見ていた。わたしは、違うことが気になった。わたしたちの歩くあぜ道の先に、断ち切られたようにへこんだ溝があり、その底に、農業用の水路が流れ、その水路のわきに、数人の子供たちが、たむろしていた。最初は、遊んででもいるのかと思ったけれど、どうもようすが違うらしい。
はるは、突然それに気付き、わたしの隣から、駆け出した。
「おまえら、そこで、なにすんの!」
「はる! はるがくんぞ!」
「うるさい、女がしゃしゃり出てくんな!」
「したけんど、名主さまに、手を出すなって、言われたろ? この前のことも、ばっちゃんに言いつけるよ!」
「はる、余計なこと、すんなよ。」