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紙の魚

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「じつは、部屋が空いているようなら、何日か、お願いしてもかまわないだろうか。」
「はぁ、そりゃあ、もちろん、」店主は、口元に笑みを残しながら、けげんそうな顔をして目をむき、わたしの顔をじろじろ見た。
「ですが、この村にそんなにお泊りになる方は、おりませんや。一晩泊まって、街道を2日ゆけば、大きな宿場町はもう目と鼻の先だ。お若い方が、本当にこんな退屈な村に、何日もお泊りになるんで?」
「えぇ、わたしは大学のもので、旅をしながら、いろいろな人と話をして、その村にある伝承や言葉を集めているんです。この村にそういったものが伝えられているか、しばらく村の人たちに話を聞いて回りたいと思っています。それで、お話をきかせてもらえるならば何日か逗留を、とお願いしたんです。」
だが、そういったとたん、店主のようすが明らかに変わったのを、わたしは見ていた。
「……あぁ、それと、この村に、相談役のような人はいますか。村にいる間に、お会いしたいのですが。」
「へぇ、それなら、名主さんが、おりますや。ここらの地所はみな、名主さんのものですから、ここらへんのことは、お聞きになるとよろしいかと。はる、」と、店主が呼ぶと、少女は大急ぎでかけてきた。
「お客さんを、名主さんの家に案内してさしあげな。荷物は、そのあたりに置いておいてくだせぇ、後で部屋に運んでおきますんで。火の用心が、真夜中前に村の門を閉めてしまいます、夜半すぎまでには、きっとおもどりを。」
「そう。」 わたしが、少女のほうに顔をむけると、はると呼ばれた少女は、「へぇ。」と言って、顔を伏せた。


 はるは、くりんとした目をした可愛い少女だった。年よりも少し、背伸びした髪型に結っているために、髷がふくらんで、細い首の上に大きな頭がちょこんと乗っているようだ。桃割れの間に蘇芳色のちりめんを巻き、若い女の髪型にしているのに、着物は年かさの女が着るような、臙脂(えんじ)と茶の縞模様の袷(あわせ)、本人がどう思っているかは知らないが、そのちぐはぐさのため、逆に、幼さがあらわになっていた。
「お客さん、帝都から来なすったの?」
「ずいぶん前にね。旅をしてもうすぐ1年になる。この村に長く滞在する客は、そんなに少ないの?」
作品名:紙の魚 作家名:十 夜