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司令官は名古屋嬢 第2話 『大晦日の群像劇』

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「はーい!!! それじゃあ、この758号世界での滞在をお楽しみください!!! 良いお年を!!!」

 連絡船から降りてきた全ての観光客の入界手続きは終わり、観光客たちは観光バスに乗りこんでいた。上社たちは、バスの近くに一列に並び、バスに向かって敬礼していた。バスの窓際の席にいた子供たちも、上社たちを真似て敬礼していた。
 バスはゆっくりと発進し、そのバスの前後に2台のプリウスの軍用車両がついていた。その軍用プリウス2台と観光バスからなる車列は滑走路から出ていった。残りの軍用プリウスと軍用トラックは、滑走路のわきにある管制塔へと向かっていった。

「……『CROSS』の佐世保中尉が視察にきているんですよね?」
管制塔に向かう軍用プリウスの助手席に助手席に座っていた中学生ぐらいの少女兵が、運転している上社に話しかけた。(上社は高一で無免許だが、中京都軍に所属しているため、運転することができる。後述の『ク日地位協定』参照すること。)
「そうだよ。大晦日にわざわざ視察しなくてもいいのに」
「CROSSの人たちは、私たちを信頼してくれてないのでしょうか?」
「……まぁ、そうやすやすと人を信じていたら、CROSSの人たちも今の地位にいないよ」
「……そうですね」

 管制塔の管制室には、レーダーや管制装置といったコンピューターが部屋いっぱいに広がっていた。レーダーは、空港周辺を表示するものだけで無く、この『758号世界』の周辺を表示する3Dのレーダーもあった。そのレーダー上を小さな艦船が漂っていた。
 管制室に管制官の姿は無かった。大日本帝国連邦から調達した管制コンピューターシステムがあるからだった。ただ、CROSSの士官服をだらしなく着た女性はいた……。その女性はタバコを吸っており、机に足を乗せて座っていた。その女性は、佐世保中尉だった。彼女の口やタバコから出てくる煙が、管制室中に漂っていた。

「ゴホゴホッ!!!」

 そんな管制室に、上社がタバコの煙に咳こみながら入ってきた。彼は両手にファイルを持っていた。ちなみに、助手席にいた少女兵は、車の中で待機しているようだ。
「……入界者名簿を見せて」
佐世保中尉は冷たくそう言った。
「あっ、はい!」
上社は口を押さえながら入界者名簿がとじてあるファイルを佐世保に手渡した。
 佐世保はタバコをくわえながら、名簿を眺め始めた。その間、上社は口を押さえながら、静かにファイルを眺め続ける佐世保を見ていた。
「……特に問題は無いわね」
佐世保はそう言うと、ファイルを上社に向かって放り投げた。上社は、あわててそれをうまく受け取った。
「入界手続きをするときに、ヘラヘラ笑ったりしない」
佐世保は、少し殺気を含んだ口調で言った。管制室には開閉はできないガラス窓があった。その窓から先ほどの入界手続きの様子を見ていたのだろう。佐世保のその言葉に、上社はドキッとした。
「す、すみません!」
上社は思わず頭を下げて謝った。そんな上社の頭に、佐世保はタバコの煙を吹きかけた。

「ゴホゴホッ!!! ゴホゴホッ!!!」

 上社は、頭に吹きかけられたタバコの煙をもろに吸ってしまい、思いっきり咳きこんだ。息苦しそうに咳きこむ上社を、佐世保は冷たい表情で見ていた。そして、殺気がこもった口調で、
「あんたたちがなめられた態度を取られていたら、私たちCROSSまでなめられた態度を取られちゃうの。しかも、今は戦時なのよ!!!」
そう怒鳴った。管制室にきまずい空気が流れた。
「……す、すいませんでした! 気をつけます!」
上社は、できるだけ煙を吸わないようにしながらそう言った。
「これから、どういうふうに入界手続きをしていくつもりなの?」
佐世保は、上社の目をじっと見ながらそう聞いた。
「……えっと、銃をしっかりと構えます。そして、一切私語はしません。あと、入界者が絡んできてもスルーします……」
上社は、マニュアルに書いてあったことを少し慌てながらも思い出して答えた。