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司令官は名古屋嬢 第2話 『大晦日の群像劇』

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第5章 喫茶店でのひととき



 同日午後1時、『CROSS自由放送』(旧NHK名古屋放送局)前にて。



「あーあ、よく眠れたし、昼ごはんでも食べに行くか。今年最後のお昼は何にしようかな?」
放送局の入口から、大須が伸びをしながら出てきた。
 そこに一台の中京都軍のプリウスがやってきて止まった。そのプリウスに乗って運転している人間の顔を見て、大須はニッコリと微笑んだ。
「ささちゃん(守山笹百合のニックネーム)!!!」
 車に乗っていたのは守山だった。さっきの場所から帰ってきたようだ。しかし、守山は、先ほどのCROSS入隊の件で元気が無かった。そのことに、大須はすぐに気づいたようで、彼女は車の助手席に素早く乗りこむと、再び微笑んで口を開いた。
「私のおごりでどこかに食べに行こう♪」
彼女は元気良くそう言った。
「……はい!」
守山は、少しだけ元気を取り戻せたようだ。



 大須たちは、久屋大通り公園の地下駐車場に車を止めると、地下街の喫茶店の『コメダ』に入った。店はほぼ満席だったが、運良く禁煙席が開いていたため、大須たちはそこに座る。ガラスで囲まれている喫煙席は、火災報知機が作動してしまうんじゃないかと思えるほど、タバコの煙が充満していた……。
 店内はとてもにぎやかで、名古屋弁がハエのように店内を飛び交っていた。カウンター席では、深く帽子をかぶった男が、この真冬にアイスクリームが乗った小倉氷を美味しそうに味わっていた。(多分、実際は、冬期にかき氷は注文できないと思います。)

 大須はサンドイッチとケーキと紅茶を、守山はオレンジジュースだけを注文しようとしたが、大須は守山の分のサンドイッチとケーキも頼んだ。
「私はジュースだけでいいですよ! おなかすいてませんし!」
守山は必死に言った。
「悩み事があるときは、たくさん食べないと!」
そこまで言うと大須は、小声で、
「もし食べ切れなければ、あのカウンター席に座っている山口さんが食べてくれるから」
大須は、そっとカウンター席に座って小倉氷を食べている男を指さした。守山は、その男をチラ見してから小声で、
「確かに山口さんですね……。 でも、どうして後ろ姿だけでわかったんですか?」
「簡単よ。 この寒い真冬に『コメダ』でかき氷を注文するなんて、キチガイか山口さんぐらいじゃない!」
「……そういえばそうですね。……というか、注文できないでしょ」
確かに、本来は注文できないはずのかき氷を食べているその男は、山口だった……。他にすることが無い山口は、大須と守山についてきたのだった。
「尾行しているつもりみたいだけど、わざわざ尾行される覚えが無いんだけど……」
そこで守山はため息をついてから、
「……尾行されているのは、ナナねぇじゃなくて私です」
そう言う守山に、大須は目を丸くする。
「……さーちゃん、何かしたの?」
「何もしていませんよ! ただ……」
「ただ?」
「……ただ、山口に、CROSSへの入隊に入隊しないかと誘われまして……」
「え?」
「そのことで悩んでいるんです……」
「…………」