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欲龍と籠手 下

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そんな奇妙な生き物の体の表面は月の光を浴びててらてらと光っていた。

「大変、疲れてるところ申し訳ないけど、延長戦と行こうか…」
二人の耳に声が聞こえてきた。
それはひどく重たい調子の声だった。

第14章 最悪の延長戦
二人の前に姿を現したのは、サンショウウオだった。しかし、その体はあまりに大きい。頭の先から尻尾の先までゆうに5mはある。
金貨が寄せ集められて、形作られたその姿は、頭から胴、尻尾にいたるまでひどくずんぐりむっくりとしていて、ひどく不細工な姿をしていた。
平たい三角頭の幅は1mくらいありそうで大きな口は人を丸のみできそうだ。
手はとても短くがっちりとしている。その短い手がまるでムカデのように腹に二列になっていくつも生えている。それでも体が重そうで腹が地面をすっていた。
そんな奇妙な生き物の体は金貨が月の光を浴びててらてらと光っていた。

二人はその姿をしばらく、呆気にとられて眺めていた。
金貨の化け物は二人を見下ろすと重々しい口調で言った。
「お前たちには感謝しなくちゃいけないな…お前らが井戸に火の玉をぶち込んだおかげで井戸の水位が下がって水が金貨で満たされた。おかげで俺は暗黒の浴槽から解放されたわけだ。」
金貨の化け物はくっくっくと低い声で笑った。
「まさか。こいつが例のクロイモリなのか…」
ウォーレンは金貨の化け物を上からまじまじと眺めてからつぶやいた。
クロイモリはぶつぶつと独り言のようにしゃべり続けている。
「お前たちにはお礼をしなくちゃなぁ…外の世界に焦がれてた俺だが、さっきの火の玉で、腹だけじゃなくて心臓まで真っ黒になるかと思ったぜ。」
クロイモリの『お礼』という言葉の口調には明らかに悪意が込められているとアンジーは思った。
「お礼なんて、とんでもない…」
なんだか、怪しい雲行きを察して、アンジーは後ずさりした。
ウォーレンはクロイモリを見据えて身構える。
「そう、遠慮するなよ…お礼に……お前らをまとめて食ってやるからよ!」
クロイモリは大きな口をがばっと開けると、いくつもの足を動かして、大きな体を引きずり突進してきた。
「うああああ!」
アンジーは悲鳴を上げながら、なんとかクロイモリの体をかわした。
ウォーレンもアンジーとは逆の方向へ身をかわして避ける。
ズシンっと音を上げて、クロイモリは石畳に突っ込み粉砕する。
ウォーレンは数メートル先の地面に落ちていた鉄パイプを拾い上げた。
ウォーレンは左足を半歩前にだすとパイプを槍のように構えて立った。

クロイモリは方向転換すると、ウォーレンにむかってくる。
ズダダダダ、クロイモリがいくつもの足を動かしてウォーレンに迫ってくる。両者の距離が徐々に縮まる。
ウォーレンはクロイモリをギリギリまで引き付けておいて、クロイモリの額に鉄パイプを突き立てた。
ガッキン!金属のぶつかりあう音が響く。鉄パイプは深々とクロイモリの額にめり込んだ。
ウォーレンは手ごたえを感じたが、次の瞬間には鉄パイプが引っ張られてズブズブとクロイモリの金貨の体の中に取り込まれていくのを感じて慌てた。
いくらひっぱっても抜けない。それどころか。パイプの先を見てみるとパイプを伝わって金貨がこっちに迫ってくることにウォーレンは気がついた。
ボカン!
次の瞬間、クロイモリの頭に青い炎の弾丸が命中して爆発した。
その衝撃で、クロイモリの頭は上あごの部分がまるごと吹き飛んで無くなった。
頭は散り散りの金貨になってバラバラあたりに散らばる。
ウォーレンは鉄パイプを引っ張る力から解放される。
弾丸の飛んできた方をウォーレンが見るとアンジーが銃を構えていた。
アンジーはクロイモリの体に次々と弾丸を撃ち込んでいく。
そのたびに、ジャラジャラと音をあげて、金貨が周りに飛び散り、ガラガラと地面に崩れ落ちた。辺りは爆発の煙に覆われる。
「どうだ!やったか?」
二人は煙を眺めた。次の瞬間巨大なしっぽが煙の中からあらわれて、煙に近づいた二人をなぎ倒した。
「ぐあっ!」
二人はすごい勢いで吹き飛ばされて、石畳に叩きつけられる。
煙の中から姿を現したクロイモリはさっきまでは吹き飛ばされて無くなっていた体の一部ももうすでに直って、元通りになっている。
「まったく、あんなに弾丸を食らって、元通りになるなんて、どんな化け物だよ。」
二人は石畳に体をぶつけた部分を庇いながらよろよろと立ちあがった。

よろよろと立ちあがったのは、ウォーレンとアンジーだけではなかった。
「ハァハァ、クロイモリ、ついに復活したのか…」
いままでウォーレンの飛び膝蹴りで伸びていたエルコットが立ちあがったのだ。
「うぁ!クロイモリだけで精いっぱいなのに、もう1人厄介な奴が目を覚ました!」
エルコットの姿を見て、アンジーは血の気が失せた。
エルコットがアンジーの方にむかってくる。
アンジーは背筋がぞわぞわして、気が重くなる。

エルコットだけでも手こずっていたのに両方を相手にできるはずがない。
しかし、エルコットはもうウォーレンやアンジーには目もくれず、クロイモリだけしか見えていないようだった。
「井戸が金貨で一杯になったから出てきたんだろ?なぁ、そうなんだろ。頼む。はやく願いを叶えてくれ!」
エルコットはよろよろとクロイモリの方へ近づいていく。
「…」
クロイモリは何も言わずにただエルコットの姿を見下ろしていた。
エルコットは何も言わないクロイモリに違和感を感じてか声を荒らげて呼びかけはじめた。
「おい。俺の声が聞こえないのかよ!」
「…」
なおもクロイモリは黙っている。エルコットはクロイモリの目の前に立っている。聞こえないはずがない。
「なんで黙ってるんだよ。約束だっただろ。早く生き返らせてくれよ。母さんを!」
やはり、クロイモリは何も答えようとしない。
エルコットはクロイモリの態度にしびれをきらし、いっそう声を荒らげた。
もしかしたら、それは叫びに近かったかもしれない。
「頼むから!クオレの母さんを早く生き返らせてくれよ!」

アンジーはエルコットの言葉を聞いて自分の耳を疑った。エルコットは自分の母親のことを生き返らせたいのだとばかり思っていた。それに、クオレの母親を生き返らせるとは一体どういうことだ。

「ふふふふ、ふははははははははは、あははははは」
急にいままで黙っていたクロイモリが笑いだした。空気がびりびりと揺れた。
「おい。どうしたんだよ?クロイモリ?」
エルコットは戸惑ったようにクロイモリの姿を見た。

クロイモリは笑うのをやめるとまた、重々しい調子でしゃべりだした。
「お前に金貨を集めさせたのはあくまで俺が自由になるためさ。そして、自由になった今。もうお前にようはない。消えな。」
そう言ってクロイモリはまた大笑いし始めた。
エルコットは一瞬、クロイモリの言葉が理解できずに唖然とした顔になった。
「お前!俺をだましたのか!」
エルコットは歯を食いしばり、憎しみのこもった眼で金貨の化け物を睨みつけた。
クロイモリが巨大な体をひねってエルコットに背を向けた。

エルコットはなおも必死にクロイモリに叫んでいる。エルコットは息を荒らげて、腕に力が入って肩がぶるぶると震えている。
作品名:欲龍と籠手 下 作家名:moturou