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欲龍と籠手 下

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自分の体に一体何が起こってるんだ?アンジーは考えをめぐらせる。すぐに傷が元通りになるなんてまるでエルコットみたいだ。でも、なんで?
アンジーの目に井戸が目に入る。ふと初めて屋敷に忍び込んでウォーレンと井戸にコインを投げ込んだことを思い出した。アンジーは井戸とエルコットが置いて行った麻袋を交互に見てあることに気がついた。

「おーい。でてこいよ。」
屋敷はエルコットとウォーレンが中で砲弾をぶっ放すためもはや半壊状態だった。
屋敷の壁は砲撃でふっとび、まるでドールハウスのように中が丸見えになっている。
元から老朽化していた床は穴だらけ、あちらこちらの水道管が破裂して、あたりは水浸しだ。

ウォーレンは吹き飛んだ壁からよじ登り屋敷の屋根の上にでた。
手には壁から引き抜いた鉄パイプを握っている。
エルコットも屋根を突破って出てくる。
エルコットは屋根に舞い降りる。
二人は屋根の上で対峙する。
ウォーレンは爆風で飛んで来た木の破片で軽く額を切って血を流している。
エルコットは小手からすらりと一振りの剣を取り出した。
「さて、せっかくお前から剣術をもらったからな。さっそく使わせてもらうとしよう。」ウォーレンは壊れた屋敷の壁から引っこ抜いた長い鉄パイプをぎゅっと握り直した。
二人は走り出して、屋敷の真ん中でぶつかる。
ウォーレンの繰り出す鉄の棒の一打一打をエルコットは体裁きで避けると剣を振り上げる。
ウォーレンはすかさずその攻撃を棒で防御して間合いをとる。
今度はエルコットが急に間合いをつめる。
エルコットの剣が振り下ろされる。
その瞬間ウォーレンはエルコットの足が瞬時に振り上げられるのを察知して棒で防御せず上半身を横に逸して剣と蹴りを回避した。
顎先をエルコットの蹴りがかすめて冷や汗をかく。
そして、エルコットにすかさず棒の一撃を叩き込んだ。

「ぐがぁ!」
エルコットは呻き声をあげる。
エルコットは後ろに飛び退いてすぐに態勢を立て直す。
「ハァ、やってくれるぜ。」
エルコットは荒い息をついている。
「剣使うとか言って、蹴り技かよ…」
「盗賊の殺しに、卑怯なんて言葉は野暮だろうが!」
二人は駆け出して、武器と武器が交差する。二人はつばぜりあいになり、お互いをにらみつける。
「もうすぐ、母さんを生き返らせてやれる!お前らに邪魔されてたまるか!」
エルコットは憎しみのこもった目でウォーレンをにらみつける。
「俺の母親は俺が7歳の時に死んだ。」
ウォーレンは唐突に言った。
「あ?」
エルコットは怪訝そうな顔をする。
「なにを言ってんだ?お前?」
「お前の身に起きた悲劇は何もお前だけの身に起きた特別なことじゃないんじゃないか?」
エルコットは歯ぎしりした。
「そんなことわかってんだよ…」
ぽつりとエルコットはつぶやいた。
「そんなことわかってんだよ。自分よりかわいそうな奴なんて、いくらでもいることくらい。俺は甘ったれのガキじゃないからな。だからこそ、俺のやることに、意見するんじゃ、ねぇよ!」
エルコットはウォーレンの鉄パイプをすごい勢いではじき飛ばした。
パイプがカランカランという乾いた音をあげて、屋根の傾斜を転がって下に落ちていった。
エルコットはウォーレンの首筋に剣を突き付けた。
「いいぜ。いますぐ、母親のところにいかせてやる…」
じりじりとウォーレンを屋根の先まで追い詰める。
ウォーレンはこれ以上、後退りできなくなる。
「くっ!」
エルコットは剣を高々と振り上げた。
「あばよ!」
ウォーレンに剣を振り下ろした。

次の瞬間、何か黒いものがすごいスピードで飛んで来てエルコットに体当たりした。エルコットは思い切り吹き飛ばされる。
「くっ!なんだ!?」

エルコットは翼で屋根の瓦を掴んで踏み止どまると、ブンブンと首を振った。

「ウォーレンを殺るなら、まず俺をやってからにしてもらおうか?」
エルコットの前にはアンジーが立っていた。
第13章 第二ラウンド

驚いたのはエルコットよりもウォーレンだった。
「アンジー!お前がなんで!しかもその姿は?!」
ウォーレンが驚いたのも無理なかった。
アンジーの髪の毛は茶色から金色に変わっている。
しかも、その背中からはエルコットと同じような翼が生えている。ただし、真っ赤なエルコットの翼とは違って色は深い青色だったが。
「助かったけど。とにかく何がどうなってんだ?お前さっきまで死にそうだったのに。」
ウォーレンがアンジーに尋ねた。
「あいつの井戸の力を利用したんだ。あの井戸にはだれが金貨をいれても効果があるんだよ。」
「だが、俺もお前と同じように井戸に金を入れたけど何も変化はないぞ。」
ウォーレンは自分の体を眺める。
「あの井戸は金貨じゃなきゃ、入れても効果がないんだ。エルコットが置いていった麻袋の中の金貨が入ってた。それを全部井戸に放り込んだら、こうんな姿になった。」
アンジーは翼を軽く動かした。

「てめぇ!このやろー」
エルコットは翼を広げて、滑空しアンジーに飛び掛かる。
エルコットは加速した勢いで籠手をつけた左手の拳をアンジーの顔面に放つ。
アンジーはエルコットの繰り出された拳を手で受け止めた。
「さぁ、選手交代。第2ラウンドといこうか。」
アンジーは歯を見せて、にっと笑う。
「モヤシ野郎に何ができるってんだ?」
「それはどうかな?」
アンジ―はエルコットの拳を握ったまま上半身を左に思い切りひねる。
エルコットの体勢が崩れる。
さらにアンジーは上半身をひねった勢いでエルコットの即頭部を狙い鋭い回し蹴りを放つった。
「うがっ!」
エルコットの肩にアンジーの左足のひざが命中し、エルコットはよろめく。
アンジーは間合いをとった。
エルコットは憎々しげにアンジーを睨みつけた。
「ちぃ、いきがるなよ…お前から叩きのめしてやる!」
「おっと、やばい!」
アンジ―は翼を広げて空に舞い上がった。

その後を追いかけて、エルコットも空に舞いあがる。
夜空を青い翼が舞い。その後を赤い翼が追った。
月を背景にして、幾度となく二つの影が交差する。
そのたびに激しく拳がぶつかりあう。
アンジ―は高く舞い上がり、エルコットの頭上を取ると羽をたたんで弾丸のように急降下する。
徐々にスピードを上げて、エルコットに突っ込んでいく。
それを見た。エルコットはにんまりと笑う。
「馬鹿め!蜂の巣にしてやる!」
エルコットは左手から、アンジ―に向かって砲弾を雨のように打ち込んだ。
砲弾はアンジーに命中して爆炎があがる。
「ざまぁみろ。」
しかし、アンジーは撃ち落とされることなく爆炎の中から飛び出した。
そのままアンジーはエルコットに向かって突進する。
そしてエルコットを掴んで屋敷の屋根に突込んだ。
屋敷の屋根はメキメキと音をあげて砕け散る。

アンジーはエルコットを押し倒して、床に押さえ込んだ。
「お前の負けだ!」
押さえ込まれたエルコットはアンジーを睨み付けながら、口許には不敵な笑みを浮かべている。
「はは。これで俺に勝ったつもりかよ。笑わせるな。」
エルコットは左手から大砲をだすとアンジーにむけた。
「吹き飛べ!」
爆発が部屋を覆う。
「ぐあ!」
作品名:欲龍と籠手 下 作家名:moturou