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欲龍と籠手 下

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第11章 井戸の前の戦い
二人はあたりを注意深く見回すとレンガの塀を飛び越えて屋敷に侵入した。
屋敷のエルコットの部屋に明かりはついていない。
エルコットは外出しているにちがいない。
月が雲に隠れている間に二人は用心深く茂みの影、風化した彫像の影を縫うようにして進み。井戸に近付いていく。

「ふぅ。よかった。何ごともなく。井戸までたどりつけた。」
アンジーはほっとして安堵の溜め息をつく。「さぁ、さっさと終わらせよう。」
アンジーはこくりとうなづくと背負っていたラッパ銃を井戸の暗闇にむけた。

「この井戸の中にいる妖精さえ倒せれば、エルコットの力は源を断たれて消えるはずだ。」
アンジーはラッパ銃を井戸の暗闇の中に向けた。
撃鉄を持ち上げて、後は引き金を引くだけ。
アンジーは引き金に指をかけた。と、その時だった。
井戸の前に立っていた二人の目の前で爆発が起きた。
「ぐぁ!」

ウォーレンは吹き飛ばされて、石畳に叩きつけられた。
爆発の直撃は免れて、擦り傷程度で済んだ。
しかし、ウォーレンの目に信じたくない光景が飛び込んできた。
近くにラッパ銃が転がり、アンジーが石畳の上でぐったりと横たわっている。
ウォーレンはアンジーに駆け寄る。
アンジーはひどい火傷をおってひどく出血している。辛うじて息をしているような状態だ。
カツンカツンという足音が聞こえる。
足音がする方を見ると左手に大砲を握り、右手には麻袋を持ったエルコットの姿があった。
大砲からはまだ、うっすらと煙が上がっている。

「おいおいおいおい。お前たち、一体何をするつもりだったんだよ?え?まさか井戸の中にその銃をぶっ放そうとしてたんじゃないよな?」

大砲の砲身をウォーレンに向けて、エルコットは言った。

「お前!よくもアンジーを!そこをどけよ!早く医者に連れて行かなきゃ。本当に死んじまう。」

「行かせやしねぇよ。どうやって嗅ぎつけたかは知らないが、井戸の秘密を知ってるみたいだな?秘密をペラペラしゃべられたんじゃ困るから。お前らはここで始末する。安心しろよ。お前もすぐ仲間と同じめにあわせてやる。」
エルコットは麻袋をその場にどすんと置いた。ジャラジャラと音が響く。
エルコットが大砲の弾をウォーレンめがけてぶっ放した。それとほぼ同時にウォーレンはアンジーのそばに落ちていたラッパ銃を掴むとエルコットに向かってぶっ放す。
大砲の砲弾と青い炎の弾丸が二人の間で衝突して爆発する。
辺りを爆炎が包む。
爆炎の中からウォーレンは飛び出して、エルコットに剣で切りかかった。
エルコットは大砲を捨て、籠手でウォーレンの斬撃をやすやすと受けとめる。
ウォーレンの剣の断ち筋に以前のようなキレのようなものはなかった。
「おいおい。どうした?それじゃまるで子供のチャンバラごっこだぜ?」
エルコットは後ろに飛びのいて間合いを取ると左手を空にかざした。
籠手の周りに黒い渦が発生する。
「これでも食らいな!」
エルコットが手を振り下ろすと無数のナイフや手裏剣がウォーレンめがけて、まるで雨のように降り注いだ。
ウォーレンは転がって、飛んでくる無数の刃物を回避する。
無数のナイフは空しく空を切り裂き、石畳にあたって乾いた音を上げた。
「やるね。なら、これは避けられるか?」
エルコットは左手を地面につけた。その瞬間、左手を中心にあたりに黒い影が渦を巻いてどんどん広がっていく。
「なんだ?この不気味な影は?」
ウォーレンは怪訝そうにうごめく影を眺める。
影はウォーレンの足元まで広がってくる。
「切り刻め!」
ズザザザザザザ
エルコットの言葉と同時に地面から突然、大量の剣が突き出してくる。
大量の刃物の波がすごい勢いでウォーレンの足元まで押し寄せてくる。
「な!?」
ウォーレンは咄嗟に突き上げてくる剣を体裁きでかわし、影が届いていないところまで後ずさりした。
「あぶなっ!」
ウォーレンは自分にぎりぎりまで迫ってきた剣の鋭利な刃を見て、冷や汗を流した。
「よく避けたな。」
無数の剣は影の中に吸い込まれていく。

ウォーレンは井戸の近くで倒れているアンジーをちらりと見やる。
これ以上庭で戦うとアンジーを巻き込みかねない。ウォーレンはそう判断して屋敷の窓にむかって走った。そして窓ガラスを破って、屋敷に転がり込んだ。
「待ちやがれ!」
エルコットもその後を追って、屋敷の壁を砲撃で粉砕してはいっていった。

第12章 屋根の上の戦い
体が焼けるように体が熱い。胸が苦しい。死にそうだ。自分の体がまるで自分のものでないように感覚がなくなってる。
全身のあちこちに心臓ができたみたいで、体のあっちでもこっちでもドクドク鼓動が聞こえる。
体が熱くてしょうがない。自分は火だるまになってるんじゃないだろうか。
アンジーはそんなことを思った。自分はこのまま死ぬのか。目の前も真っ暗だ。
そんなことを考えているとふと誰かが泣いている声が耳に入る。だれだろう。自分の傍で誰か泣いている。
ごめんなさい。ごめんなさいと何度も何度も謝っている。
うっすらと目を開けるとクオレの姿が見えた。クオレが泣きながら、なんとか自分を運ぼうと必死になっている。
「ク、オレ…」
アンジーはからからになった口で彼女の名前を呼んだ。
なんで、彼女がこんなところにいるんだ?自分たちをずっと見送っていたから家にいるとばかり思っていた。
クオレは自分の名前を呼ばれてはっとなる。
「アンジーさん。ごめんなさい。あたしが。あたしが。変なこと頼んだから。あたしが人に頼んだりするから。そのせいで。そのせいで。アンジーさんが…こんなことに…あたしのせいで…。」
彼女は鼻をぐすぐす言いながら、ボロボロ涙をこぼした。
のどがからからで声がでない。それでもこれ以上、彼女に自分を責めてほしくなかった。この子はエルコットのことも自分やウォーレンのことも心配になって、家を飛び出してきたにちがいない。この子は人が傷ついていて、自分が汚れたり傷ついたりしないことを恥ずかしいと思っているんだ。そんなこと気に病むことなんてない。なんとかそのことを伝えたい。そうでなければ、この子はずっと自分を責め続ける。
なんとか、言葉を紡ごうとしても、アンジーの口からはか細い息がひゅうひゅうと出るばかりで、言葉が出てこない。
アンジーは自分が情けなくなって、涙が出てきた。

そんな時、アンジーの体に不思議なことにいままで火だるまになっているように熱かった体が少しづつではあるが山の冷たい水を浴びたように静まっていくのを感じた。
体中でドクドクと激しく脈打っていた鼓動が静まり、穏やかになっていく。
重たかった体がだんだんと軽くなり、のどの激しい渇きも癒えていった。
アンジーはぐっと腕に力をこめた。さっきまで自分の物でないようだった腕が動いた。

体の感覚が少しづつ戻ってくる。
アンジーは泣いているクオレの頭をそっとなぜた。
「僕は、大丈夫、だから。自分のこと、そんなに責めないで。」
アンジーははっきりとした調子でクオレにそう言った。
クオレは驚いた顔をする。
アンジーは体を起こした。手のひらを見ると、手のひらに痛々しく刻まれた切り傷がだんだんと閉じていく。
作品名:欲龍と籠手 下 作家名:moturou