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欲龍と籠手 中

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「いや、親父は実業家だった。でも、実際泥棒よりも性質が悪いよ。奴は俺や母さんを捨てて逃げたんだ。ろくでなしだよ。もしもへらへら笑ってのうのうと生きてたら、皮をはいで、切り刻んで、熱い湯の中に突き落としてやりたい。でも、母さんには俺ももう一度会いたいな。」
そういうとエルコットは手を洗い、懐からロケットをとりだして、開いた。
「綺麗な女の人だね。」
クオレが覗きこんで言った。
「ありがとな。」
エルコットは頬を少しほころばせた。

クオレは働かせてもらえる場所を探して、毎日のように出かけるので、エルコットはクオレがいない間は目立たない格好をして近所をぶらつくようになっていた。
エルコットはクオレの家の近くにある荒れ果てた教会の近くで足を止めた。

塔の上の方にあるステンドグラスが割れている。たしかあのステンドグラスは自分がぶつかったから割れたのだ。
クオレはこの教会で自分をみつけて、家まで運んだにちがいない。
近いとは言っても、女の力で自分のような大の男を運ぶのには大変だったろうとふとエルコットは思った。
エルコットは視線を教会の下の方に下ろしていく。それにしても教会はひどい荒れようだ。
敷地の中は草がぼうぼうと伸び放題で、ゴミがたくさん捨てられている。
教会の壁には赤や黄色のペンキで落書きがされている。
女?エルコットは教会の敷地を注意深く見る。
バケツとビニールの袋を持った女が伸びきった草の中でかがみこんでいる。
それは見覚えのある姿だった。
「クオレ。お前何やってんだよ。」
ぼうぼうに伸びきった教会の敷地の中をエルコットを入っていく。
「あれ?エルコット?なんでここにいるの?」
「なんでじゃない。何をやってるのか聞いてるんだよ。」
「ゴミ拾いだけど。」
「なんで、お前がこんなことやってんだよ。仕事がなくて自分が食べてくので精いっぱいのお前がさ!」
「だってさ。これ見たら、神様悲しむよ。」
クオレは教会のらくがきや庭のゴミを指差した。
「そろそろ、ちょうどきりがいいから帰ろうと思ってたとこ。」
そう言うとクオレはそそくさ教会の敷地から出て行った。

次の日も同じ時間に教会を覗くとクオレはゴミ拾いを1人でしていた。
その次の日も、そのまた次の日も、クオレは汗を拭いながらせっせと1人でゴミ拾いをしている。
ある日、エルコットが教会の前を歩いていたとき、二人の若者が教会を覗きこんでいるのを見つけた。そして耳に若者の会話が聞こえた。
「おい、見ろよ。またあの女だ。ゴミ女がゴミ漁ってやんの。」
「はは、本当だ。いくら仕事がないからって、あんなみじめな真似したくないよな。」
男たちはゲラゲラ笑っている。
「いやいや。あの女はゴミが大好物なのさ。さて、あの女に大好きなゴミをくれてやるか。どっちが先にぶつけられるか競争な。」
そういうと男の1人が手に持っていた飲みかけのジュースを大きく振りかぶった。
ガシン
エルコットは知らず知らずのうちにゴミを持っていた男の腕を強く握り、ひねりあげていた。

腕をひねられた男は悲鳴をあげる。
手に持っていたジュースはダボダボと地面にこぼれる。
もう1人の男は何するんだよと最初暴言をはいたが、エルコットの顔を見て、見る見るうちに青ざめて震えだした。そして、我先に逃げ出した。
腕をひねられた男は痛みでひいひい言っている。
「俺のダチにふざけたマネするんじゃねぇよ。失せろ!ゴミ虫が…」
男は涙をためてコクコクうなずいた。エルコットが手を話した瞬間、男は脱兎の如くその場から立ち去った。

エルコットはどかどかと雑草を踏みつぶして教会の中を進んだ。
足音でクオレはエルコットに気づく。
「お前はバカだ。お前がそんなことしたところで、何もかわりやしないのに。挙句の果てに、他人にバカにされて…」
「エルコット、何言って…」
「お前がやってることは山火事をじょうろで消そうとしてるようなもんなんだよ。だれも褒めてくれないし、それどころか変な奴だと思われてんだ!」
「……」
クオレはうつむいた。
「しかも世の中はお前よりももっと頭の悪い奴がたくさんいて、お前が火事をじょうろで消そうとしてる真横で火に油注いで笑ってんだぞ。やってらんないとか思わないのかよ!」
「報われなくたって、わかってもらえなくたって、いいもん…」
「おまえ、心のどこかで自分はかわいそうな悲劇のヒロインとでも思って、自分に酔ってるだろ。自分だけはいい子で、周りは悪い人間ばっかりだとか、うぬぼれてるんだろ?」
「言いたい放題言って、あんたに…私の何がわかるんだよ…」
クオレは硬く血が出るほど、拳を握りしめて、ぶるぶる肩を揺すっていた。
「どうしてお前はなんでも1人でやろうとするんだよ。」
「だって、どうせいくら頼んだって、だれも、助けてなんて、くれないんじゃん。あたしには、友達なんていないんだよ。ずっと1人だったんだもん。これからだってどうせずっと1人だよ。」
クオレは鼻をぐすぐすと鳴らせて、声はもうほとんどむせび泣いていた。
「お前にとって俺は友達じゃないのかよ。声をかける前から相手を決めつけるなよ。」
クオレを膝をついて、鼻をすすった。手で顔を覆っておんおんと泣きだしていた。

エルコットはクオレをおぶって家にむかった。
「エルコット。私、怖いんだ。」
「何が?」
「雇ってくださいって、働かせて下さいって、100軒頼んで回っても、だれも私を雇ってくれなかった。何がいけないのかもよくわからない。断られるたびにね。お前なんて、必要ないんだよってだれかに言われているみたいで、怖いんだ。」
「……」
「父さんの葬式の日にはね。親戚以外ほとんどだれも来なかったんだ。しかも、みんなすごく眠たそうにしててね。形見を分けるときはみんな目を輝かせるのにね。笑っちゃうよね。私ね。私なんてね。いなくなったってだれも悲しまないんじゃないか、いままでやってきたこともこの先私がやることも全部なんの意味、価値もないんじゃないかと思うとすごく怖いんだ。」
エルコットはふんと鼻を鳴らした。
「お前はバカか。お前のやってきたことがなんの意味もないだって、バカのくせに俺をバカにするなよ。それじゃなにか、お前が俺を助けたことだって、何の意味も価値もないっていうのかよ。」
「別にそういうつもりじゃ…」
「お前の葬式には少なくとも俺が1人で気が狂ったようにいつまでも泣いてやるから、安心しろ、な。ほら、元気出せよ。」
「うん。」
「そうだ、俺がお前の母さんを見つけてやるよ。」
「え!?」
クオレは少し驚いたような顔をした。
「な、だからさ。元気出せよ。」
「ありがとう。」
クオレはエルコットに笑いかけた。

第8章 食後の騒動
食事の間、クオレとエルコットはたわいのない会話をして、談笑していた。
アンジーは二階の部屋の床に耳を当て、その会話に耳を澄ませていた。
アンジーは血も涙もない凶悪犯だとばかり思っていたエルコットが楽しそうに会話をしているのが意外で少し驚いた。
会話から食事が一通り終わったのがわかった。
食事が終わるとエルコットはクオレの家から出ていったようだ。
アンジーは確認すると、そろそろと階段を下りていった。
作品名:欲龍と籠手 中 作家名:moturou