欲龍と籠手 上
「つい悪い癖?てめぇのその手に握ってるものはなんだ?」
エルコットはするどく言った。
「手?え?」
アンジーは手に握っていたロケットを眺めた。
アンジーは、はっと気が付き弁解する。
「あの!これは!別に盗むつもりだったわけじゃなくて…」
「コソ泥の薄汚い手でそれに触ってんじゃねぇよ。」
エルコットは声を荒らげて怒鳴った。
「ウォーレン、パス。」
慌ててアンジーはウォーレンにロケットを放り投げた。
思わずウォーレンはロケットを両手で受け取る。
「て、バカ!なんで俺に渡すんだよ。返す。」
ウォーレンはアンジーにロケットを投げ返した。
「ひー。俺はいらないから。」
またアンジーはウォーレンにロケットを投げ返した。
「お前が拾ったんだろうが。」
ウォーレンは受け取って、すかさずアンジーに投げ返す。
そのやりとりを見て、エルコットはその顔を怒りと憎しみで歪めた。
目は怒りで吊りあがり、拳をぶるぶるふるわせている。
「お前たち、よっぽど俺にぶち殺されたいらしいな。それなら望み通りにしてやろう。」
エルコットの左手の籠手から黒い渦が発生して真っ赤な斧が現れる。
エルコットは斧を振りかざして、アンジーに迫ってくる。
アンジーは咄嗟に背負っていたラッパ銃を構えるとエルコットめがけて、ぶっ放した。
ラッパ銃から、青い炎の弾丸がほとばしり、エルコットの体に命中した。
爆発が起きて、辺りが煙に覆われる。
「おい、大丈夫か?」
ウォーレンが尻もちをついているアンジーに駆け寄る。手を貸して、立ち上がるのを手伝う。
「うん。なんとか。でもpまさか、いきなり斧で襲いかかってくるなんてね。危なかった。」
アンジーは額の冷や汗を手でぬぐった。
「おいおい。なんだ?今のは?花火か?おい?」
煙の中から声が聞こえて、二人はぎょっとする。
「お前たちはママに教わらなかったのか?火遊びするなって。」
煙をかき分けて、エルコットが姿を現した。
まったく、さっきの火の球が効いている様子がない。
そしてエルコットはまた斧を振りかざすと勢いよく振り下ろした。
ガキンッ
刃物と刃物がぶつかって乾いた音が響く。
「あいにく、俺たちは育ちが悪くてね。」
ウォーレンは腰に携えた剣でなんとか斧を受け止める。
ウォーレンはエルコットの力の強さに驚く。
剣が斧の力に耐えきれずに折られていてもおかしくなかったと焦った。
「逃げるぞ!アンジー!」
斧の一撃を受け流すと二人は勢いよく部屋を飛び出した。
「俺から逃げられると思ってるのか?」
エルコットは真っ赤な翼を広げた。
二人は全速力で廊下を走った。
ウォーレンが前を走り、アンジーはそれに続く。
アンジーはふと後ろを振り向いた。廊下の先に真っ赤な翼を広げて迫ってくるエルコットの姿が見えた。
「うそだろ。勘弁してよ。」
アンジーはもう泣きたくなってきた。
廊下を半分まで来て、バキバキと床の板が砕ける乾いた音がした。
「うあ!足が床に突き刺さった!」
アンジーの片足が床の板を踏み抜いた。どうやら、運悪く穴のあいている床を踏んだらしい。
アンジーが必死になって抜こうとするが、足が床に深くめり込んでなかなかぬけない。
後ろから、真っ赤な翼を広げて迫ってくるエルコットの姿が見える。
「おいおいおい!何やってんだよ。こんな時に!」
先を走っていたウォーレンがアンジーがついてこないことに気がついて、Uターンし、アンジーが立ち止っている所に駆け付けた。
「足が床に突き刺さって抜けないんだ。」
「どうすんだよ!もう奴はそこまで来てるんだぞ。」
ウォーレンはアンジーの足を必死に引っ張りながらいった。
「イタタタタ!」
アンジーは足を思い切り引っ張られて悲痛な叫びをあげた。
エルコットはもうすぐそこまで迫ってきている。
エルコットの顔が勝ち誇ったように笑っているところがウォーレンの目に写った。
ウォーレンはフンと鼻を鳴らす。
「まったく、世話の焼ける!こうなったら!」
ウォーレンはアンジーの背負っているラッパ銃を手に取った。
「ウォーレン、何するつもりだ?それで奴と戦うつもりなのか。さっき見たろ?奴にこの銃はききやしないんだ。」
「ちがう。こうするんだよ。」
ウォーレンは銃の砲身をがちゃりと下に向けた。
引き金を引くと爆音を上げて青い炎の弾丸が飛び出し、自分達二人の立っている床に着弾し、粉砕した。
二人は粉砕した床板もろとも下の階の厨房に落ちる
積み上げられていた皿が木っ端みじんに割れて、机やいすも降ってきた残骸で押しつぶされる。
「イタタタタ!むちゃくちゃだな。」
アンジーは落ちていた鍋に足を突っ込んで転びそうになりながら、走り出した。
「贅沢いうなよ。」
ウォーレンは腰をさすりながら言った。
二人は一階の窓を突破って、外にでる。
二人は死に物狂いで塀まで走る。
ウォーレンは跳躍しレンガ造りの塀の上に飛び乗った。
アンジーも先に塀を登ったウォーレンの手を借りて、塀を登る。
ウォーレンは塀から飛び降りて、軽やかに着地する。
アンジーは飛び降りるときに、足が塀の縁に絡まって、顔面を地面にしたたかに打ち付けた。
「お前今日は踏んだり蹴ったりだな。」
ウォーレンは鼻血を出しているアンジーに肩を貸すと哀れむように言った。
エルコットは翼を広げて屋敷の屋根の上に上ると辺りを見回した。ところがあたりに二人の盗賊の姿は見当たらない。忽然と姿をくらました。そう遠くへは逃げられないはずだと思っていたのにと首を傾げ、エルコットは舌打ちする。
「あいつら、今度会ったら切り刻んでやる。」
ハァハァハァ、ゼェゼェゼェ、
「あ、危なかった!」「つかまったら、どんなひどい目にあわされるか。」
ウォーレンとアンジーは下水道の壁にもたれかかって荒い息をついていた。
「あいつが不死身の化け物って言うのは本当だったんだな。」
ウォーレンは至近距離で青い炎の弾丸を食らっても平気な顔で立ち上がったり、真っ赤な翼を広げて追いかけてきたエルコットの姿を目の当たりにして、実感した。
「それにしても、アンジー!なんで、あいつにすぐロケットを返さないんだよ。すぐ返してたらあいつもあんなに怒らなかったかもしれないのに。」
ウォーレンはそう言ってアンジーを非難した。
「申し訳ない…つい気が動転して。」
アンジーはさんざんひどい目にあって手入れた唯一の戦利品である金のロケットを眺めた。
第5章 橋の攻防
ウォーレンとアンジーは川に面した3階建のビルの屋上にいた。
風が強く吹き抜けていく。
アンジーとウォーレンは屋上から双眼鏡を使って川にかかっている鉄骨でできた橋を眺めた。
「アンジー、本当にエルコットがあの橋に現れて、盗賊とドンパチやるのか?」
ウォーレンは少し不安そうに尋ねる。
「ああ、間違いないよ。エルコットのアジトの地図に橋の下にある盗賊団のアジトを今日の夜九時に襲撃するって書いたあったからね。」
アンジーは自信満々に言った。
「それでご親切に、盗賊たちにそのことを教えてやったわけだ。」