YEAH!! 年末
貧乏神は日和ってのんきに杯をあける。珍しく目の周りを赤くした影山は、酒の入ったコップを板切れのカウンターに叩きつけた。
「何が金だ! 何が女だ! そんなもんをな、何の努力もしねぇ奴に、『ちょっとイイ波長ね☆』なんて簡単にホイホイ与えちまいやがって! あのオカマ野郎! ケダモノが! クソッ」
突然、前の真っ直ぐな道路で、軽トラックが蛇行し別の店舗に突っ込んだ。まるで爆発するような衝突音や悲鳴と少し遅れて、きな臭い匂いが満ちる。影山だけが見向きもせず、またコップ酒を煽った。
「あいつら、人生のワビサビってもんをわかっちゃいねぇ」
そう吐き捨てる。今度は別の方向から、ガラスを割るような音が響いている。まるでどこかで暴動でも起きているかのような不穏な空気が広範囲に満ちているようだった。貧乏神は、少し顔色を青くして影山の肩をゆする。
「だ、旦那ぁ……。ナンか漏れてんじゃないっすか……?」
不貞寝しかけていた影山は、頭を上げて、その手を払った。
「ん? あぁ……。俺は酔ってねぇ!」
チェッ、と舌打ちして、影山はいくらかの金を置いた。
「ちきしょー。酒呑んだら余計かゆいぜ──」
首の後から背中をぼりぼりと掻きながら、影山は店を出て行った。ちなみに足りない分は貧乏神が払わされたのだった。
一方藤宮も、不慣れな幸福に息切れがしてきていた。女の子との会話は掴み所がなく、同じ言葉の繰り返しが多い。さすがに段々と疲れてきていた。
(……それにしても、ずいぶん素直だったよな……)
ふと、最後の影山の顔を思い出す。なんとも言えない、彼にしては珍しい、言葉を飲み込んだような表情だった。
自信のない、どうにも脆い目の色──。藤宮は、それを知っていた。ずっと、鏡の中に見てきた顔だった。
『お前藤宮と友達なの?』
『全然違うよ!』
放課後や休み時間の、何気なく自分が外した場所で聞こえる会話。
あるいは、帰属する集団もない時に。
『出て行けよ、お前は関係ないだろ』
激しい悪意というのではない。ただいわれない排除を受けるたび、刻まれ重なっていく擦り傷のようなもの。
「…………」
「藤宮くん?」
藤宮は、いつの間にか黙ってしまっていた。優しい声に呼ばれても、それは合図にしかならなかった。
「……ごめん」
え、と、彼女は驚く。藤宮は取り繕うように、微笑った。