YEAH!! 年末
二人の間を、木枯しが吹き込み遠ざける。階段を降りて見えなくなった空間を、藤宮はやけに物寂しく感じる。けれど木枯しの冷たさに震え、慌てて部屋に戻った。
「ごめんごめん」
彼女は猫を抱いて、座ったまま心配そうに見上げている。
「……藤宮くん、あの人、お友達なんでしょ?」
「え? 全然! そんなんじゃないよ!」
咄嗟に、両手を振って否定する。途端に、彼女は安心して微笑った。
「よかった」
藤宮には意外な反応だった。
「あの人、時々大学にもついてきてたでしょ。藤宮くん一番仲良さそうだったけど……。正直、怖くて……。だから藤宮くんも怖い人なのかと思ってたの。でもそんなの勘違いだったけど──。本当はとっても優しいのね」
ニッコリと微笑みかけ褒められ、藤宮はつい赤くなってしまう。
「そんな……」
まるで、夢みたいだと思った。
自分の部屋にこんなに可愛い優しい女の子がきて、一緒に猫を可愛がりながら過ごせるなんて。まるで恋人同士みたいな、世界がこの部屋だけみたいな錯覚に、藤宮はうっとりとした。
(やっぱりあいつって厄病神なんだな……。他人からは怖く見えてたなんて)
正直、第三者の客観的な視線というのはなかなか聞けないものだから、自称イケメンの影山が世間からどうみられているのかなんて考えたこともなかった。実際、藤宮から見ても悔しいけれどイケメンだと思っていたし。けれど、女の子は怖いと思うものなんだと知って、気分が良かった。
その優越感が、ついさっきのやりとりを思い出させる。
(そうだ、いつもいいようにたかられてたけど、俺だってあいつにビシッと言えるんだ)
女の子に認められるだけで、こんなに自分に自信が湧いてくる。藤宮は不思議な高揚感を覚えた。
「へぇー。そりゃエライ災難ですねぇ旦那も」
そこは、パチンコ屋と同じ通りに面した小さな立ち呑み屋。今はもう珍しい、酒屋の一間を区切って飲ませる、小さなカウンターだけの店だ。
「まったくだぜ。この年末によぉ。福の神の奴もちょっとは考えろってんだ」
薄暗がりの店内でクダをまくのは影山である。しきりに頷くのは、パチンコ屋にたむろする貧乏神だった。
「まぁ福の神ですからねー。ワシらじゃどうにもなりませんわ」