YEAH!! 年末
前に飼っていたというのなら、環境的に問題はないだろう。こんな奇跡のような幸運を、藤宮は逃がしたくなかった。
「もし、よかったら……。う、うちに、そいつ見にこない?」
大胆な申し出に、彼女は驚いたように顔を上げる。藤宮は慌てて両手を振った。
「あ、へ、変な意味じゃないから! ほんとに! 猫、ここに連れてこれないし! ね!」
その様子がおかしかったのか、彼女は笑った。それで、藤宮も少し安心する。
「じ、実は……、その猫さ……」
藤宮は、落ち着いて、猫の事情を話し始めた。
その時、アパートの室温は一気に氷点下まで下ったかもしれない。
それほど冷たい空気が、玄関から中に吹き込んでいた。
パチスロで買ってほろ酔い鼻歌交じりの影山を迎えた部屋には。藤宮と見知らぬ女子がいる。そして二人の間にはあの猫も──。影山を、高みから憐れむような微笑で見つめていた。
「あの……、こ、こんにちは。……お邪魔してます……」
明らかに歓迎されていない異常な反応にも、彼女は気丈に常識的な挨拶をし、軽くお辞儀までした。それがまるで合図のように、藤宮が奇声と共に影山を押し出す。
もう暮れかけた廊下で、影山と藤宮は対峙する。
「いいい今はヤバイよ!」
藤宮は動揺していた。勿論、その上酔っている影山も冷静とは言い難かった。
「なんだぁ? あの女」
猫に対するのと同じように攻撃的な影山の態度に、藤宮は余計に慌てる。
「お前には関係ないよ」
「そんなわけあるか。今、俺の座布団使ってなかったか?」
「いいだろそれくらい! 大事なお客さんなんだから!」
今にも暴力を振るいそうな影山の攻撃性が、かえって藤宮の態度を強くしていた。自分が彼女を守らなければ、とさえ思った。
「とにかく! 今は邪魔しないでくれ! どっか行っててくれよ!」
今まで見たことのない強い拒絶が、その叫びで爆発したかのように。
「邪魔? 俺が?」
まるで呆然と、藤宮を見下ろす。
「お前……、俺に出て行けっていうのか」
「そうだよ! 当たり前だろ!」
すっかり正気の目で、影山は藤宮を見る。その睨み合いに藤宮が耐えられなくなる直前に、影山は一歩しりぞいた。
「────わかったよ」
ふ、と背中を向けて、登ってきた階段に向かう。
「せいぜいビッチとよろしくやれ。あばよ」
小さく手を振って、もう振り返らなかった。