YEAH!! 年末
それでも胸の底では5%くらい、そんな現実を捨てきれない自分を哄笑しつつ、藤宮は携帯をいじって写真を眺めていた。
その時、一陣の風が吹いた。
「あー! ミケにゃん!」
背後から突然、脳天を突き抜けるような声が響く。藤宮が慣れない雰囲気に振り返ると、一人の女子学生が立って彼の携帯を覗き込んでいた。
「カワイイー! 見せて見せて!」
返事も待たずに、トレイを置いて隣に座り、携帯の画面を自分に向ける。いわゆるゆるふわウェーブな髪から、ほんのり甘い匂いがする。教養講座でよく一緒になっていた娘だと、すぐにわかった。いかにも愛され系スタイルな女の子で、あまりキツイことを言わない印象があった。つまり、藤宮は好感を持っていた。
「藤宮くんが飼ってるの?」
うん、と頷く。間を持たせるために、藤宮は別の写真にも切り替えた。彼女はすぐに、画面に見入る。
「名前は?」
「え、名前? えーと……」
昨日拾ったばかりで、何も考えていなかった。影山との会話でなら『猫』で通じるからだ。しかし名前がないなんて、薄情な感じだ。そんな風に思われたくなくて、藤宮は必死で考えた。
「──福! 福っていうんだ」
「可愛い! ピッタリね」
宝くじが当たるきっかけになったことからのでまかせだったが、褒められると悪い気はしない。藤宮は頭に顔を思い浮かべて、何度か名前を反芻した。
「あ、背中も模様があるー……。しっぽまっすぐねぇ」
ついには藤宮の手から携帯を奪い、自分でどんどん写真をスクロールしていっている。パケ代を気にして危ない画像などダウンロードしていなかったことを、藤宮は幸運に思った。
「ね、猫、好きなの?」
藤宮が尋ねると、彼女は顔を上げ、また俯いた。
「うん……」
ためらいを不思議に思ったが、藤宮は期待でそれどころではなかった。
「か、飼ってる?」
彼女は少し、目線を泳がせた。
「うん……。こないだまでね……。こんなミケの子だったの」
「こ、こないだ?」
「うん……。……夏に、死んじゃったの」
いたたまれない沈黙が流れる。こんなときのフォローを、藤宮は思いつかない。
「……も、もう、飼わないの?」
「…………」
困ったように、黙ってしまった。けれど手はずっと携帯を握り締め、画像を繰り返し眺めている。