YEAH!! 年末
一軒家かペット可マンションに住んでいて今ペットを飼っていない都合のいい知り合いなど、少ない交友関係から選べるはずもなかった。
(飼い主かぁ……。俺に探せるのかな)
改めて、自分の人間関係の貧しさを思い出す。
(もう一年半以上経つのに、口きいたことない奴の方が多いっていうか、しゃべったことある奴だって数えるほどしか……)
携帯電話で撮った猫の写真を、小さな画面で代わる代わる眺める。大人しいし賢い、いい猫だと思うのだ。野良だが、多分前はどこかに飼われていたのではないだろうか。この写真さえ見てもらえれば、誰だって飼いたくなると、藤宮は妙な自信があった。
目の前を、女子学生のグループがかしましく通り過ぎる。同じ講義かどうか頼りないが、見覚えがある。
そう、話たことはなくても、見た覚えがあれば、あまり不審がられないのではないか、と、藤宮は思った。思い切って、話しかけてみようか。この写真を見てもらいたいだけで、やましい気持ちなどかけらもないのだから。誰に咎められるはずもないではないか。
藤宮は、少し離れた席でおしゃべりに興じている女子学生二人をじっと見つめて、脳内でシミュレーションしてみた。
<‥ここから‥>
(まず爽やかな笑顔で僕)『ねぇ君たち、猫飼わない?』
(ラブリー女子A)『えー?』
(キュート女子B)『どんな猫?』
(僕)『こういうのなんだけど』
ここでさり気なく携帯の写真を見せる。
(ラブリー女子A)『きゃー!カワイイ!』
(キュート女子B)『いやーん!』
(ラブリー女子A)『だっこしたーい!』
(僕)『昨日通りがかりの駐車場で震えてたんだ。見てられなくってさ』
(キュート女子B)『えぇー』
(ラブリー女子A)『藤宮君って優しいのね』
(キュート女子B)『私、前からそうじゃないかって思ってたの』
(ラブリー女子A)『藤宮君のにゃんこなら私飼うわ!』
(キュート女子B)『ダメ!私よ!』
(僕)『困ったなー、猫は一匹なんだけどー』
なんてことだ。僕のせいで二人が喧嘩を。いけない。
(僕)『なんなら……、僕を飼ってみないかい?』
(ラブリー女子A&キュート女子B)『藤宮くん……(キューン☆)』
<‥ここまで‥>
「……なーんてね……」
藤宮は、幸福を湛えた微笑を浮かべ、現実に帰ってきた。
(そんなに美味い話、あるわけないよなぁ)
まったくね。