YEAH!! 年末
「は? お宅何?」
「あ、いえ……すいません。人違いです……」
ペコペコと頭を下げて謝った。
丁度、帰宅ラッシュの時間だ。電車が停るたび、駅からはたくさんの人が流れて出ていた。彼は、ほとんどこの町から出て行かないから、ここにいても仕方がない、と思う。それでも周りを見ながら、歩いた。
もう一軒のパチンコ屋に入ってみる。客の顔を一通り見て回って、またカウンターに尋ねた。
「あの、多分……、ここにしょっちゅう来てた人、知りませんか?」
少し年配のボーイが、困惑気味の微笑を浮かべる。
「どんな人?」
「あの…………、お……、……男の人です…………」
それ以上、説明できなかった。
店を出しなに浮浪者が目に入ったが、気にはとめなかった。確実に、探している人間ではないから。
(どうしよう……、俺……)
他に思い当たるのは、コンビニくらいなものだ。広くない町のコンビニを見て回る。気がせいて、自然と足早になる。
うっかり飛び出した道路で、車に接触しそうになった。鋭いヘッドライトが目に焼き付く。
(俺、何探してるんだろう……)
もう、走っている理由さえ曖昧になっていく。反比例して、焦りがどんどん膨らんでいく。
(確か……、何か、大切な……)
忘れてはいけないものを、忘れかけている。その事実だけ、確信だけで、藤宮は走った。
影山は、河原の土手にいた。街灯の少ないそこに座り込み、冬の夜空を眺めている。タバコの煙が月光に揺らめいて散る。
「あーあ。いい磁場だったのになぁ……。あんな絶妙な磁場持ち、なかなかいないぜ」
肺の底から煙を吐くような深い溜息と一緒に呟く。
「またしばらく、つまんねー奴の所流れ歩くか」
元々、ひとつところに長く居座ることはあまりない。自分の意思ではなく、大抵は居候先が経済的にも物理的にも崩れてしまって、宿木を変えるしかなくなるのだ。だから、藤宮の元にもずっといられると思っていたわけではない。ただ、予想よりも短かっただけだ。
土手の上を行き来する人の気配の中に懐かしいものを感じ、影山は振り返った。藤宮が走ってくる。まるで不慣れな初心者ジョガーのように、犬の散歩の親子にぶつかりかけて謝っている。そして、一生懸命周りを見回していた。
一瞬、その視線が交わる。けれど、藤宮は気付かなかった。そのまま素通りし、また走っていってしまう。