YEAH!! 年末
影山は、立ち上がった。そして背を向け、反対方向に歩き始めた。
その時。
「ぅわーっ! イヤだーっ!」
奇声が、穏やかな宵の空気を震わせる。周囲の人々がその中心を見た。影山も。膝をついて叫んでいたのは、藤宮だった。
よほど走り続けたのか。ぜぃぜぃと激しく息を切らせ、背中を上下させている。周囲に見守られる中、唐突に顔を上げて振り返った。
ちょうど土手を上がっていた影山と、正面から目が合う。
今度は、もう、逸らさなかった。
互いに、互いを認め合う。藤宮の口が、大きく開く。それでも、十秒は間があいただろうか。
「────かげやまーっ!」
指差し点呼されて、影山は驚いた。藤宮は構わず駆け寄り、肩を抱き寄せる。
「影山! お前!」
失いかけていたものが、一気に蘇り、藤宮の顔は泣きそうでもあった。
「……どこ行ってたんだよ! 探したんだぞ!」
「俺を──?」
うん、と藤宮が頷く。
「……なんで──」
「え──」
改めて理由を聞かれて、藤宮は口ごもった。
「…………き、昨日当たった金で、……なんか食おうぜ」
焼肉屋で思う存分食べ、飲み、腹もくちくなったころ、影山が聞いた。
「ところでお前、女はどうしたんだよ」
藤宮のジェラートを舐めている手が止まる。
「あーっ!」
綺麗さっぱり忘れていたのだ。そんなことだろうと、影山も黙って焼肉に誘ったのだが。
慌てて勘定を済ませ、帰路につく。道路から見上げるアパートの部屋は、真っ暗だった。階段を登りながら、藤宮は溜息をついた。
「怒ってるだろうなー」
「そりゃそうだろ」
影山が愉快そうに笑う。
「バカだなーお前は」
そう言われて、藤宮も笑った。
「──やっぱり俺、女の子は二次元だけでいいや」
なんでそういう結論になるのかは、影山にも理解できない。
寒い部屋に、猫は残っていた。彼女にしても、コケにした男の手元にいた猫など不愉快なだけだろう。その顔を見て、藤宮はあっと声を上げ、手を合わせる。
「ゴメン! お前の餌買ってくるの忘れた!」
その後で、影山が派手に噴出す。もちろん福の神へのあてつけも込めて。
しばらく、影山はご満悦だった。実は福の神の猫といえば、しばらく一緒にいたのだ。痒みも臭いも、あの時の優越感があればどうってことはなかった。