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生きてるって素ン晴らしい!

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 あの形相を思い出し、身震いした。それでも藁をも掴むという例えもある。藤宮は、玄関と窓にそれを貼った。セロテープだが構わないだろう。ついでに窓を閉め、カーテンを画鋲でしっかりと抑え、光を遮った。
 外界から遮断された部屋で、灯をつける。暑いけれど、やっと落ち着ける気がしてきた。
 なぜかまた、影山のことが頭に浮かぶ。さっきは考えてはいけないような気持ちになったけれど、今は、むしろ逆だった。
(そういや、俺、あいつのこと何にも知らないや。親だけマンションに引っ越してここで独り暮らし始めたら、いつのまにか転がり込んでて……)
 どういう初対面で、どういういきさつでこの部屋に迎え入れたのか──。思い出そうとするが、どうしても出てこない。
 子供の頃からこのアパートに住んでいて、大学入学前に、晴れて購入した分譲マンションに家族は移ってしまった。こちらの方が大学に便利だからと、藤宮だけがここに残ったのだ。家族は影山を知らないから、彼と知り合ったのは入学以降になる。ということは、まだ1年と少しのつきあいのはずなのだ。
 それなのに、出会った頃の記憶だけがすっぽりと抜けている。
 唯一、まだ居座られることが自分の中で当たり前ではなかった頃のことは覚えている。
『なぁ、そろそろ帰ったら……?』
『ん? 余計な心配すんなよ、大丈夫』
 心配でなく迷惑だと、どうしても直接伝えられなかった。もしかして、影山は気づいていたのかもしれない。けれど、そんなことで譲歩してくれる性格では既になかったのだ。
『なんて顔してんだよー。俺たち友達だろ?』
 屈託のない笑顔で肩を叩かれて、ほだされてしまった。
 藤宮は、胸の奥が痛んだ。
(あんな風にあっけらかんと『友達』なんて言われたの初めてだったから──。嬉しかったんだ。だって……)
 物心つくころから、親友なんて都市伝説だった。
 仲良くなったと思うクラスメイトには、たいてい、何かしらの釘をさされた。
『俺達別に、友達とかじゃないから』
『勘違いすんよ』
『友達と知り合いは全然別でしょ』
 正面切って言う奴もいれば、うっかり話しているのを聞いてしまうこともある。ニックネームで呼ぶことを拒まれたことも少なくない。
 人に胸を張れるような取柄も何もない。けれど、嘘をついたり意地悪をした覚えはない。自分の何が足りないのか、藤宮にはわからなかった。