生きてるって素ン晴らしい!
風流なオチに場が和み笑いあう。が、それで済む話ではなかった。
「なわけねーだろ! この辺に紅葉なんかねー!」
影山が激昂して、藤宮の胸倉を掴み上げた。
「てめー! なに水子のカケラなんか連れてんだ! 童貞だって信じてたってのに!」
「ししし知らない!知らないよ! 俺じゃないよ! 俺なわけないだろ!」
「じゃーあの水子はどういうことだ!」
「知らない! だって俺童貞だもん! 女の子となんか手も握ったことないのに! つきあったことないのに! あるわけないだろ!」
「本当か!」
「本当だよ!」
藤宮の叫びは、悲鳴にも近かった。
唐突に、影山がその手を離す。
「なーんだ、やっぱりそうかー童貞かー、そうだよなー。俺はお前を信じるぜ」
打って変わって満面の笑みである。咳き込みながら、その豹変具合と拘りに、藤宮は微妙な面持ちで同居人を見上げた。
「影山……」
「あ、俺はもちろん違うけどな」
薄い期待感を、容赦なく打ち砕く。
「俺みたいなイケメンが童貞なはずないだろ。女がほっとかないっていうか、相手にしないのはむしろ罪」
恥ずかしい告白だけをさせられた心の傷に、ぐりぐりと塩が塗りこまれる。
「こんななんちゃって水子は焼いときゃいいだろ。葉っぱが赤ん坊の手に化けるなんてよくあることだし」
そうなの?
灰皿でタバコの火をつけて葉を燃やす姿に、それ以上のことは聞けない。果たして根拠があるのかないのか。けれど自信満々に断言されると、藤宮は納得してしまうのだ。
西向きの窓から、夕日が入ってくる。そのまぶしい光に煙が揺らめく。藤宮は、影に避けて膝を抱えた。
「……俺……、死ぬのかな……」
「どうだかな」
影山は面倒そうに答えて、新しいタバコに火をつける。
「……そういえば、今朝、ドアの外で女の人泣いてたし……。確か死人の出る家の前で泣く女って話あったよな……」
「あれはバンシーじゃなくて隣のDV妻だ」
だいいちバンシーは日本の妖怪じゃないとか、あれは名家にしか出ないとか、突っ込みどころが満載だったが、本人は聞いちゃいなかった。
「やっぱり俺って死ぬんだ」
「……」
非常に眉唾である。が、どちらにも言い切る材料はない。
作品名:生きてるって素ン晴らしい! 作家名:蒼戸あや