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生きてるって素ン晴らしい!

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 影山がニヤリと笑う。妙な説得力に、藤宮は納得しそうになった。
「ば、馬鹿馬鹿しい。今日だって、別にたいしたことなかったし。朝から交差点で信号待ちしてたら危うく居眠り運転のトラックが飛び込んできたり、工事中の横通ったら後でクレーン車倒れてきたり、蓋の開いたマンホール落ちかけたり、ふざけてる小学生の傘の先が目の横掠めたり、教室入ったら急にみんな静かになったり、教授の論文データうっかり削除したり、学食の豆腐酸っぱかったり、自転車に轢かれかけて避けたら車道に飛び出して車に轢かれそうになったり、でもカバンは轢かれたり……。でもそんなのは普通に、毎日どれか一つはあるもんだよ……」
「…………」
 影山にもフォローのできない不運さである。自分で言っていても、藤宮は改めて心が弱くなっていった。
「お……俺、今日死ぬのかな」
「さぁ。むしろ今まで死ななかったのが不思議だな」
 影山は、また何かキーボードを叩いていた。同じ部屋にいても感じる隔たりに、藤宮はますます気持ちが落ち込んでいく。
「…………俺、あの占い師探してくる!」
「おい!」
 影山が呼び止めても、藤宮は構わず玄関で靴を履いた。
「し、信じてるわけじゃないけど……、もっと詳しい話、聞いてくる」
「藤宮!」
 名前を呼ばれて、振り返った。
「今度こそジャンプ買ってこいよ!」
 たてつけの緩いドアを、つい強く閉めてしまった。


 藤宮が帰ってくるのは、早かった。
「いなかった……」
 張り切って飛び出してから、三十分も経っていないだろう。その割には、まるで長い放浪の旅から戻ってきたかのように、疲労を滲ませていた。
「……ジャンプは?」
「コンビニまで渡れなかった……。ベビーカーにまで轢かれかけて……。もう街中トラップだらけにしか見えない……」
「ほんと使えねーな。自分のことしか考えてねーのかよ。この俺がジャンプに飢えてるってのに」
 反論する気力もなく、藤宮は膝を折る。ふと、その肩に乗っているものに、影山は気づいた。
「なにつけてんだ?」
 何気なく、それを払う。何の抵抗もなく、二人の間の畳に落ちた。
 小さな、赤ん坊のてのひらだった。
 時間が静止したかのような一瞬。影山が、ぱすんとそれを踏む。
 微妙な一呼吸をおいて足をどけると、畳の上にあるのは小さなもみじの葉っぱだった。
「なーんだ、季節はずれの紅葉か〜」