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生きてるって素ン晴らしい!

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 鬼気迫る形相である。意表を突かれた言動に、藤宮はぞっと震える。腕を握る力さえ、尋常でないように感じられて恐怖した。
『やややややややめてくださいよ!』
『死相がでてます、はっきりと。いいですか、あなた。あなたは厄病神に取り憑かれている』
『聞きたくあばばばばば!』
『このままではいけませんよ! いいですか、その厄病神を払うには、このお札と壷を──!』
 動揺する藤宮に構わず、おばさんは憑かれたように胡散臭い説明をしだす。藤宮は、その腕を振りほどこうとめちゃくちゃに暴れた。どうやったのか覚えていないけれど、突き飛ばしたような形で手が放れ、あとは夢中で振り返らずに走った。背後でまだ何か叫んでいるようだったけれど、飛び出した道路で鳴らされたクラクションに消えてわからなかった。
「…………」
「……それで?」
「え?」
 いつものことだが、藤宮の話にオチはない。つまらないなりに『とってんぱらりのぷ』くらい言えばいいのにと、影山はよく思う。またミニノートのブラウザに目を移して、面倒そうに影山は訊ねる。
「その壷、買ったのか?」
「買うわけないだろ! 三〇万もするって言うんだぞ!」
「なーんだ。買えばいいのに」
「え?」
 新しいタバコに火をつけながら、影山は言った。
「だってお前、今夜死ぬんだろ? 三〇万で命が買えるなら、安いもんじゃねーの?」
 人一倍金に汚い影山とは思えない意見に、藤宮は目を白黒させる。
「そ、そんなの、嘘に決まってるだろ! いくら俺でも、そんなインチキに引っかかるか!」
「あー、まーなー。でもお前が厄病神に取り付かれてて死ぬってのはタダで教えてくれたんだから、親切じゃん?」
「う……そ、それは……。でも厄病神なんて……。そんなのいるわけないだろ! アニメじゃあるまいし!」
「……」
「なんだよその顔」
「いや、別に」
 カオスな沈黙を、影山は手で修正するようにさすった。
「厄病神はともかく、だ」
 終わりかけのタバコの煙を吸い込みながら、影山は頷く。
「確かに、そんな下らない脅しに動揺してジャンプを買い忘れたのは万死に値する。今日死んでもしょうがない」
「関係ないだろ! さっきからなんで死ぬ前提で話が進んでるんだよ。俺は病気も怪我もしてないんだぞ。死ぬわけないだろ」
「人生なんて、いつどこでなにがあるかわからんもんだぜ」