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生きてるって素ン晴らしい!

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 藤宮が、そよ風を胸いっぱいに吸って、呟いた。数時間前とはうって変わって、清々しい表情だ。
「俺、もうこの命を無駄にしたりしない、絶対何か見つけて、しっかり生きるんだ!」
 両手の拳を上げて、力強くバンザイする。その横で、影山がガビガビのTシャツを着替えながら受け流した。
「はいはい、今だけ今だけ」
「俺は忘れないぞ! 夕べの悔しさを思い出せば、何だってできる!」
「立派立派」
 根拠ない自信を得たらしい藤宮は、窓に仁王立ちになった。
「ふふん。なーんだ。死ぬなんて。ははは。あんな占い、やっぱりインチキだったんだよな」
「どうだかねー。ホレ」
 影山が、カーテンを全部開いて見せる。その窓ガラスには、外かららしい無数の手形が幾重にも重なっていた。
「ぎゃー!」
「これ、拭いてもとれねーんだよな」
「怖いだろ!」
 ご丁寧に、脱いだTシャツで拭いて見せた。
 そのとき、電話が鳴った。一瞬二人で顔を見合わす。コードは繋がっているから、鳴ること自体は不思議じゃない。そっと藤宮が近づいてディスプレイを覗くと、母親の携帯からだった。
「あ、母さん……え? うん……うん……。あ、いや……何でもないんだ、もう……。うん……じゃ……」
 窓ガラスを拭きながら、影山が様子を伺っている。
「なんだ?」
 受話器を置いた藤宮は、微秒な微笑を浮かべて答えた。
「おじいちゃん、回復したって。なんか、倒れる前より元気だって……」
「よかったじゃん」
「うん……」
 曖昧に返事して、やかんを火にかけに行く。その背中に、影山はまた声をかけた。
「これを機に、じいさんの技でも継いでやったら?」
「え、そんなの無理! 俺にあんなきつい仕事できっこないし!」
 両手を振って、激しく拒む。
「さっきなんでもできそうとかなんとか言ってたんじゃねーのか」
「そ、それは……」
 麦茶のパックを入れて、ガス台のそばで立ち尽くした。
「でも今度、会いに行ってみようかな。久しぶりに──」
 ところで、窓を拭こうと外に身をのりだしている影山には、まつわりつく気配があったのだった。
「旦那〜、もうあんないたずらやめてくださいよ」
 夕べメールをよこしてきた死神である。影山は振り返りもせず、手を動かしていた。
「人聞きの悪いこと言うな。俺は何にもしてねーだろ。文句があるなら向こうの家主に言え」