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生きてるって素ン晴らしい!

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 集まっている死者のいらだちもそろそろピークだった。せっかく生への未練を絶ち切ってここまで流れてきたというのに、こんなところで躓いては、腹も立つのも当然だろう。
「通れないってことは、まだ死ななくていいんじゃないの?」
 特に未練の強い若年層から、不満は噴出し、顕在化した。家族を残してきた働き盛りが行動に出だしたのだ。
「俺は帰るぞ! まだ死んでられるか!」
 声の大きな成人男子が、風に逆らって元来た方向へ飛び出した。それがきっかけになって、我も我もと肉体へ戻ろうとする気配が波のように広がっていく。
「家のことが気になるし、一旦帰るわ」
「僕もかえろー」
「ちょっ!みなさん! 待ってください! 今帰っても、ちょっと寿命が延びるだけなんですよ! たいして変わらないんですよ!」
 慌てるのは死神である。引きとめようとするが、数が違いすぎて話にならない。
「それでもいいし」
「ちょっとでも延びたらめっけもんでしょ」
「コレクションの整理できたら上等じゃー」
 モラハラというか、赤信号みんなで渡れば怖くない、の通りで、誰も耳を貸そうとはしなかった。立場上、死神としても、無抵抗な死者に暴力は振るえない。
「わー! ほら、先輩も何とか言ってくださいよ!」
「んー。まぁ不可抗力だからしょうがないよなー。年度末に帳尻あわせしときゃいいだろ。たまにはこういうこともあるって」
 肝心の管理職まで、既に止める気が萎えていた。
「最近はあの世も手狭になってるから、一晩分くらいの死人が減ったって、どってことないだろう」
 下っ端死神の、物言いたそうな視線に気付き、慌てて取り繕う。
「だってほら、他の死者の道って地獄行く奴も多いから、雰囲気悪いし。年寄りとか子供つれてくのかわいそうじゃん? 普通に極楽いく人とかさ。あそこの死者の道が一番通りやすくて好きなんだよ」
「もーそんなこと言って──」
 決算前に残業続きになっても知りませんよ、なんて、ボソボソ責められる。
「ははは。まぁ俺達が生き返らせるってワケにもいかないから。せいぜい見ないふりしといてやれ」
「はぁ……」
 潮が引くように、人々が八方に散っていく。それはマンション屋上で待っていた彼らにも伝わっていた。
「おじいちゃん、なんだか帰れるみたい。よかったね」