生きてるって素ン晴らしい!
人見知りするような戸惑いを見せる。老人が微笑すると、遠慮がちに歩み寄ってきた。白いワンピースから伸びる手足のか細さが痛々しい。
「このあいだ見ていたテレビに出てたお爺さんに似てると思って……」
「ふぁっふぁっふぁ。ニュースか何かかね」
「さぁ……。家でついてただけだったから──」
はにかむように、少女は俯く。
「ちょっと前に取材されたから、それかもしれんね」
「有名な方なんですか?」
記憶違いではないのと、テレビに出たことのある人という羨望が、見上げた目に輝いていた。老人は、それを微笑ましく思う。
「いいや。じゃが職人じゃから、そういう取材はたまにある」
「すごーい」
「いいや、たいしたことないんじゃ」
需要が暦に左右されるものだから、特に忙しい時期にはローカル局の取材など珍しくない。自らはほとんど語る機会もないそれらを思い出し、視線を遠くする。
「もう時代にはあわん技術じゃ。だがのう……。仏様には申し訳ない。それだけが心残りでのぅ──。こうしてこの道まできても……、仏様にも、仕込んでくれた親方にも、あの世であわせる顔がないわ」
その横顔を、少女は見つめた。そして視線を追い、閉じた道を見る。人々の、通れない苛立よりも迷いが、風を淀ませていた。
BLCD一枚の再生が終わると、外のざわめきはかなり和らいだ。続けなくても納得してもらえたようだ。藤宮は、ほっとしてテレビをつける。日付が変わり、毎週楽しみにしている深夜アニメの時間だった。
お気に入りの美少女のオープニングが始まると、少し表情が緩む。緊張がほぐれた分、心が揺らいだ。
深夜らしい露出過多のアクションと、キャラ達の危機に、息を飲む。時期的にクライマックスを迎えていて、いやが上にも話は盛り上がっていた。両手の拳を握り画面に見入っているが、心はどこか虚ろだった。
思わせぶりな引きから続くエンディングを見ながら、藤宮はつぶやく。
「この話、どうなるんだろ」
「さーな」
影山はどうでもよさそうに返事する。彼はアニメには興味ないが、観ている藤宮を邪魔することもしない。
「俺……。もう、来週みられないのかな……」
藤宮自身、初めて、死がリアルに感じられた。改めて口にすると、かえってこみ上げてくるものがある。
影山は、何も言わなかった。
作品名:生きてるって素ン晴らしい! 作家名:蒼戸あや