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生きてるって素ン晴らしい!

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 現実の状況とは全く次元を隔てた世界が、音声で始まった。どこかで聞いたことのある低い声ばかりが、やはり前置きもそこそこにイケナイコトに突入してしまう。
「お、俺……」
 まるで腹具合がどうかなったかのように身悶えて、藤宮は頭を抱えた。
「この声優すんげー好きなんだよぉぉぉぉぉぉ」
「仕事選ばないイイ奴じゃねーか」
 アニメではカッコいい男前キャラの定番声優が、あまつさえイイ声で鳴かされていることに、藤宮は泣いた。
 ドラマの区切りで音が消えた一瞬に、ふと藤宮が気付き、影山と顔を見合わせる。
「し、静かになった……?」
 影山も、神妙な顔で頷き、窓の方を見上げた。
「男の喘ぎ声のイヤさ具合に悪霊も退散したか?」
藤宮は、思い切ってCDの再生を切った。途端に前よりも一層激しい勢いで窓が鳴った。もはや明らかに怒気を孕んでいる。
「うわぁぁぁぁぁ」
 反射的に再生ボタンを押す。すると、耳を澄ますようにまた静かになった。
「聞き入ってたのかよ」
 さすがの影山も呆れた。藤宮は、怯えて頭を抱えている。
「腐女子の悪霊なんて……。絶対殺される……」
 よくわからない理屈だが、影山も納得した。
 ふいに、藤宮はある可能性に気付き顔に出る。すかさず影山は背中をたたき、首を振った。
「うむ。男なら純潔を貫き死を選べ」
「ナニも言ってないだろ!」


 さて。塞がった門の内側から偏った娯楽が提供されているその間、興味のない魂の人々は相変わらず身の置き場なくたむろしていた。通れないとわかっていても、一歩でも目的地に近づこうとするのは人情であろう。人だかりならぬ魂だかりは、時間を追うごとに大きく膨らみ、ざわめきを煽る。それをなるべく沈静化しようと走り回り説明を求められる死神は、ほとんど運行休止の通勤ラッシュ駅とその駅員の様相である。
(文句を言っても、道が開くわけでもなかろうに……)
 老人は、人ごみから下がって、マンションの屋上に腰掛けた。魂なので疲労は感じないが、長年染み付いた癖のようなものだった。ここにも、チラホラと死にたてらしい人々がいる。年寄りがほとんどだが、働き盛りや若者の姿もあって、老人は憐れに思う。誰もが、誰とも目をあわさず俯きがちだった。
 そんな中で、一人の少女と目があった。
「どうしたね、年寄りが珍しいかね」
「あ、ごめんなさい……」