生きてるって素ン晴らしい!
「じゃあ逃げ出すか? どこに?」
藤宮に返す言葉はない。
「だ、大丈夫だ。うちは家具らしい家具なんかないし……。爆弾でも落ちてこない限り、死ぬようなことなんて……」
「心臓発作とかあるけどな」
「いいいいい今ので心臓止まりそうになっただろ!」
本気でビビってきている藤宮に、影山がまた笑った。
「まぁまぁ、気にし過ぎなんだよ。気のせい気のせい」
今更ながら他人事な影山の態度に、藤宮は黙って背中を丸める。
その時、影山の携帯が震えた。メールだ。ちょっと珍しいと、藤宮が振り返る。影山はメールを見ているような操作をして、舌打ちしている。目が合って、藤宮は慌ててまたテレビの方を見た。
アドレスに登録していない差出人だが、影山は開いた。
《旦那、こりゃなんの冗談です? ここを開けてくださいよ。困りますよ》
素早く、返事を入力する。
《俺が閉めたんじゃないからな、どうにもできねーよ。死者の道なんか他にもあるだろ》
送信すると、すぐに返信がきた。
《お盆の後はどこも混むんですよ》
今度は舌打ちもしないで返事を打つ。
《俺には関係ないね》
それを送信して、すぐに着信拒否登録してしまった。彼らと馴れ合うのは面倒だった。
静かになった携帯を尻ポケットに戻して、ゴロリと寝返りをうつ。背中が、藤宮に当たる。
(あー、いい磁場)
テレビを見ていた藤宮が、振り返って見下ろした。
「くっつくなよ、暑いだろ」
「じゃあ窓開けろ。それかクーラー買え。今すぐ」
「無茶言うな。お前俺が死んでもいいのか?」
虚ろな番組しかないテレビを、藤宮は消す。静かになって余計、また窓の軋む音がひどく大きく感じる。
怖いのと情けないのとで、藤宮の背中は震えだした。鼻水をすする音が、影山を責める。
もうウンザリだとばかりに、影山は深い溜息をついた。
「どのみちこの暑さじゃ死ぬ」
そう、締め切った部屋は暑かったのだ。しかも影山のタバコの煙が充満していて、吸う本人でさえ嫌になってきていた。しかも、ビールはもうない。
その時、影山は閃いた。ぱぁぁと明るい笑顔で起き上がる。
「よし! ここは拾ったエロビデオでも見てスカッとしようぜ。ホラ、ラブホとか幽霊出ないっていうだろ。厄払いにはエロだよエロ!」
「ナニ持ってるんだよ!」
作品名:生きてるって素ン晴らしい! 作家名:蒼戸あや