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エイプリル・フール(第二部)

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夜中の12時を過ぎた時だった。圭介はそろそろ目頭が重くなって来た。日ごろの疲れがたまっているせいもあるだろう。井上に聞いた。
「なにか、飲み物はないか?」
「勿論。冷蔵庫に入っているよ。どうせだったら、元気出るやつにする?」
そう言って井上はどこで待機していたのか、寅吉門を召喚した。
「エネルギードリンク、ここにいる人の分お願い。」
「かしこまりました。」
そう言って寅吉門はキッチンへ向かった。すぐにエネルギードリンク4本を持ってきて全員に配ってくれた。
圭介は椅子から立ち上がり、長時間座っていたせいで重くなっていた腰をねじった。
「さすがに、なにも見つからないな。」
そう愚痴をこぼした時だった。井上があっ、と声を上げた。
何だろう、と思い井上の方を見つめると、彼は速足にどこかへ去ってしまった。しばらくして戻ってきた井上の手にはカッターがあった。
彼が何をする気なのか、最初はだれもが不明だった。
井上はカッターの刃を出し、テーブルに向った。刃を絵に向ける。
「おい、何してるんだ!」
山岡が止めようとしたが、もう遅かった。刃の先端は絵の中に押し込まれていた。
「なんて事するんだ!絵が!」
慌てて周りを囲む三人には全く気にせず、井上はカッターの刃先に集中している。
山岡はその場で頭を抱え込んでしまった。
「おいおいおいおい、マジかよ。」
やらかしてしまった。少なくとも、誰もがそう思ったはずだった。しかし、その絶望感は次の瞬間、すぐさま消え去った。
井上がカッターで切れ目を入れたのは絵の凸凹の部分だった。それを慎重に指て引っ張り、中を探った。
「ほら見ろ、あったよ。見つけた。」
その場の皆が目を丸くした。
井上の指先に挟まれていたのは小さなメモリーチップの様なものだった。

~第四章~

四人は井上の書斎に移動した。書斎と言っていいほどの雰囲気ではない小部屋だ。
「ここに足を運ぶ事は少ないからね。特にここんところはずっと日本に引きこもっていたからさ。」
井上が得意げな口調で話しながらパソコンを開いた。
「さてと。こいつの中身を拝見させて頂きましょう。」
メモリーチップをPCの横に差した。カチャリと音を立て、チップはパソコンの中に滑り込んで行った。
しばらくすると一つの画面が浮かび上がってきた。フォルダーファイルだった。
ワードの文章データが三つ入っている。
井上が一つ目をクリックした。
ワードが開き、全員が画面を覗き込んだ。薄暗い部屋の中で四人の顔は不気味な色を帯びた。
「何ですかね、この図は。」
木村が不思議そうに呟いた。
「どこかの地図みたいだな」
山岡が髭を擦っている。圭介に意見を促すような目を向けて来た。
何の図面かは良く分からなかったが、どこかの一室の見取り図だということは確かだ。
しばらく思考をめぐらせたが思い当たることはなかった。
「次のファイルを開いてみましょう。」
代わりの言葉を思いつき、それを言った。
井上が二つ目のファイルを開けた。ファイルが開いた瞬間、圭介ははっとした。
「あ、これ!ちょっと待って下さい。」
言われるがままに井上の指は止まった。
「やっぱりだ。これは、うちの会社の見取り図だ。」
全員が驚いた表情になった。
「小笠原貿易か?」
山岡が素っ頓狂な声を上げた。
「はい。この二つ目のファイルの図は、間違いなく私達の職場の会議室の見取り図です。ここを見てください。」
図にあったマークに指をさした。全員の目が圭介の指を追う。
「このマークはおそらくドアでしょう。一つ目の図面に戻ってください。」
井上が画面をクリックし、また最初の見取り図が浮かび上がってきた。
「恐らく、ここに繋がっているんだと思います。」
圭介の指が差す所には同じマークがあった。
「これは、社長室ですね。数回しか入った事がなかったので、最初は気づきませんでした。」
全員が息を呑んで聞いている。
「三つ目のファイルを、開いてみてください。」
またもや見取り図だった。
「大橋、これはどこだ?」
今度は本当に見覚えがなかった。先ほどの二つの部屋よりかは遥かに狭いと言うのが図からわかる。眼を細くして見つめてみる。画面のあちこちに圭介の鋭い視線が注がれる。
圭介の眼はあるマークで止まった。
「これ、なんのマークでしょうか。」
丸の中にバツマークがついたものだった。
社長室の見取り図の方に戻ってみた。同じマークがしるされている事に早くも気付いたのは木村だった。
「これですね。ここも部屋が繋がっているのでしょうか。」
しかし、そう言ったドアらしきものには全く見覚えがない。
沈黙を確認し、木村が言った。
「調べてみるしかないようですね。」
「それじゃ、それは簡単な事なんじゃないか?大橋はまだ小笠原に所属している事になっている。明日にでも普通に会社に戻って、堂々と社長室に入れるよな。」
山岡が明るい口調で言った。
「その出入り口があるかどうかを調べる事くらいなら出来るかもしれませんが、中に入るのは無理ですね。」
「それに、この見取り図が一体何の意味があるのかも知らないと。」
圭介はそう付け加え、画面から遠ざかった。
「明日にでも、行ってみましょう。今日のところは休ませていただきます。」
全員が同じ意見でまとまった。今日は解散、そして明日の圭介の活躍に成功をゆだねた。

~第五章~

皮肉なほど心地よい春風が吹く中、圭介は自社の目の前に立っていた。しかし、どうも足を踏み出せない。朝早く来ていたのは、皆の出勤前に会社に入るためだったのだが。
どのくらい立ちすくんでいたことか、いつかの朝のように桐島にポン、と肩を叩かれた。
圭介はドキリとして振り向いたが、桐島は普段と変わらない様子だった。
「大橋!帰って来たのか!」
「あ、ああ。」
「さ、入ろう。」
社内は全く変わらなかった。殺風景なオフィス、綺麗に並べられた机。何も変わらなかった。
変わったのは圭介だけだった。
妙な心境になった。自分の命を狙う会社に対して緊張しているのは確かだ。
しかし、桐島、そして千春。彼らは何も知らないはずだ。
真実が見えているのは圭介と井上だけなのだろう。
何と言っても一番の黒幕は社長自身だろう。
本条雄一。真実のカギを握るのは彼だけだ。
今日からまた出勤することは社長に伝えてあった。そして、あの会議室で会議を開く事になっていた。
相変わらず会議室には「新プロジェクト開発チーム本部」のラベルが貼ってあった。
会議室に入ると、不覚にも圭介は安心感を抱いてしまった。はっとしてすぐに自分に言い聞かせた。
ここは、敵陣だ。自分の命は狙われている・・・
8時を過ぎると千春がやってきた。圭介の方を見るなり、声をかけて来た。
「あ、大橋さん!戻られたんですね。」
圭介は軽く会釈をし、自分の席に着いた。
***
会議が始まった。
社長の見慣れたはげ頭が奥で動く。
さて、ここからが本番。圭介は深呼吸をひとつした。
皆、いつものように席に着いた。
会議の内容は、今となっては圭介の味方である、犯人側との交渉についてだった。
井上たちと巧みに練った計画を無駄にはできない。
それ故、実に気をつけながら話を進める。
一通り話終えたところで桐島が質問して来た。