TheEndlessNights(1)
まったく整理が付かない。弥月は取り乱すしか出来る事がなかった。聞きたい事は山ほどあった。だがそれ以上に聞きたくないことのほうが多すぎた。
弥月は膝を着いて崩れ落ちる。現実が揺らいだ。
まるで覚束無い足元に、立っていることもままならない。
息が荒い、眩暈もする、だが、ソレに伴って来る感覚だけは確かに、無い。
有り得るはずが無い、現実なわけがない。
だが、未だ胸から離せずにいる掌からは。何も伝わっては来なかった。
認められない事実だけが、無言を以って現実を突きつけるばかりだった。
昨日までは確かに在った日常が崩れ去った瞬間。
それを認められる人間が、果たして、この世にどれだけ居るのだろう。
通り魔に襲われた人間。
冤罪で逮捕された人間。
登山で遭難した人間。
事故で体機能を失った人間。
癌で余命を勧告された人間。
そしてここに、人間を失った人間。
だが、訪れてしまったら受け入れるしかない。諦めるしかない。それが運命。
ましてや突きつけられた非現実は特上品。もう逃げる事だって許されない。
だから、彼は、唾を吐きかけるのだ。狂った車輪に何もかも轢き潰されながら。
だってソレしかできない。運命という物は過去の言葉だ。
どれだけ手を伸ばしても、どれだけ駆けずり回っても、届くことも行き着くことも叶いはしない。切り開くことさえ幻想に貶める呪の言葉だからだ。
だから。
「落ち着いた?」
聖から掛けられたその労りの言葉に恐らく表裏は無かっただろう。
だが弥月にとってそれはまるで、最後通告のように聞こえた。
作品名:TheEndlessNights(1) 作家名:卯木尺三