小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

TheEndlessNights(1)

INDEX|4ページ/11ページ|

次のページ前のページ
 
両親にバレないようにコレを抱えて居間を抜け、かつ言及を自然に回避する。速やかさ、且つ慎重さを要求される高度ミッションだ。
出来るか? 否、やるのだ!
自分の失敗は即ち、

「母、刀と血まみれシャツ発見」
      ↓
「息子が非行に!?いや、そんなレヴェルじゃねぇ!」
      ↓
「お父さんどうしよう、弥月が究極のS殺人鬼か究極のMハラキリに目覚めちゃった!?」
      ↓
「落ち着け母さん!SとかMとかそおゆう話じゃないぞ!」
      ↓
「弥月これはどおゆうことだ?父さん怒らないから言ってごらん」
      ↓
「なんかわかんないけど殺っちゃったかもだZE(もちろん犯罪的な意味で」
      ↓
「通報しました」
      ↓
「家庭崩壊」

という終末展開を意味する事は想像に難くない。まずい、何がなんでも、まずい。
これを回避するのは当事者の自分を置いて他にない!
「弥月!!」
「きゃーーーーーーーー!?」
バーンという大きな音を立てて、自室の唯一の防御機構を破られた。
そこには、年のころなら30後半のエプロン姿の細身の女性の姿があった。弥月の母、無双皐月(むそうさつき)だった。
肩口まででサッパリと整えられた髪にやや釣り上がった目が快活な性格をそのまま現しているようだ。
いきなりのミッションインポッシブルぶりに思わず悲鳴を上げる弥月に、扉を開け放った母、皐月は訝しげな視線を息子に送った。
「さっきから呼んでるでしょ!何してんのよ?朝っぱらからエロ本でも隠してんの?」
考え事をしていて弥月にはまったく聞こえていなかった。完全な不意打ちだ。
だが、あまりの精神的衝撃に弥月は手に持った刀と布をベット下に放り投げていた、常日頃から極秘ファイル隠蔽に従事していた、弛まぬ努力によって生まれた奇跡の所業である。
結果的に、功を奏したその技のお陰で、母の鷹の目に例の物が捉えられることはなく、現時点での家庭崩壊フラグを回避する結果となった。
「な、なな、何事も御座いませぬ母上」
「何で時代劇口調なのよ?まぁどうでもいいけど。アンタにお客さんよ、意外と隅に置けないこと」
「客?」
ふふふ、と含み笑いを浮かべる母の意外な台詞に大きな疑問符を浮かべる弥月。
自分に客?こんな朝っぱらから?
「そうよ。約束があったんでしょ?こんな早くから態々来てくれてるんだから、早く出なさいよ?んでもって、今度紹介なさい」
「??? ああ、わかったよ、すぐ行く」
更にまったく心当たりの無い言葉を投げかけられながら、弥月はとりあえずこの危機を脱するべく話をあわせる。狙い通り、話が終わると母は、退出して扉を閉めた。
またまたほっと胸を撫で下ろす弥月。この分だと近いうちにこの胸は撫で擦り過ぎて無くなるだろうなと思った。
皮肉なことにこの予想は大まかに的中することになる。
玄関先には、新たな問題が可憐な少女に姿を変えて待ち構えていた。
この日から、少年、無双弥月の受難の夏休みがスタートする。
初日の受難の名は凪原聖(なぎはら ひじり)。弥月の通う「私立加賀見高等学校」の二年にして学園生徒会副会長。
成績優秀、容姿端麗、栗色の艶やかな長い髪を先端付近で束ねた髪型が特徴的な、古い言い方が学園のマドンナだ。
当然、弥月との接点など在る筈も無い、それがどうしてか。


「どう? わかる?」
マドンナの胸を揉みしだくという暴挙に繋がるのだろうか。
否、正確には別に揉んでもいないし、これが弥月の意思というわけでもない。
不意にマドンナこと聖によって掴まれた弥月の腕は彼女の胸元へと半ば強制的に誘導された結果だ。残念ながら、ここからいい雰囲気、みたいなラブコメの様なコンボなんかありはしない。
弥月の体は訳のわからない熱を帯び、朝から嫌な汗に濡れた。
彼女の首から下げられた十字架のネックレスが同じく手に当たる。そのひんやりとした冷たい感覚が、なんとか彼のぶっ飛びそうな意識を繋ぎとめてくれているようだった。
現在の舞台は弥月にとって見慣れた自室から同じく見慣れた通学路に移る。
朝靄のベールがまだ灼熱の陽光を遮っていて暑さは酷くない。当然、弥月の感じるソレは精神性のものだ。
なんとか両親を誤魔化して、刀を抱えて出てきてみれば、玄関には美女が「おはよう」ときて御登校、続いての、まったく前振りのないこの状況である。
いつもより早い時間と在って他に生徒と思しき人影も無ければ、駅との進行方向も逆と在って通勤する社会人の姿も無い。
だからといって、人がまったくいないなんて事でもない。ここは住宅街の真っ只中、いつ人に出くわすとも知れない状況だ。
弥月も健全な青少年。見方によっては大変危険な状況。聖の問いかけ。まったくもって、彼の脳みそが休まる隙などありはしない。彼の低スペックCPUは度重なるオーバークロックにクラッシュ寸前だ。いや、もしかしたらもうクラッシュしてるのかもしれない。
何故なら、弥月の手に当たるのは布越しに感じる下着の少し硬い感触に、更にその下にある柔らかな感触。それだけ、そんなのおかしい。そう。
「サービスは認めるけどね。いやらしい顔ばっかりしてないで?その衝動の根源を見なさいよ。もっと大事なことに気付くから」
だってその先が無い。
高揚した弥月の血の気が、干潮のように一気に引いた。クロックアップした脳みそが次に起こしたのはフリーズだ。
伝わってくるのは本来あるはずのものが欠如した感覚だけ。続いた聖の言葉に裏打ちされて、弥月にも確かな実感として伝わった。人間なら、いや、生命なら必ずある鳴動。
心拍が、心臓の鼓動がない。
衝撃はそれに止まらなかった。聖の手は弥月の手をそのまま今度は弥月の胸に誘導する。
信じがたい。
そしてやはり、そこにも、ない。
心臓が、動いて、ない? そんな馬鹿な。
「なん……どうして!?」
「理解した? もう人間じゃないの。不死者(アンデッド)なの。いえ、ソレよりもっと酷い、出来損ないの化け物(フリークス)よ」
聖は弥月の質問に答えない。そうじゃない、答えてはいる。だが、弥月の求めるものじゃない。
お構いなしに、彼女は空いている手を自身の左目に当て、コンタクトと思しきものを取り外す。
「私も、もちろん貴方もね」
言葉を証明するように。コンタクトの外された彼女の瞳は。人間のソレではなかった。
魔女の釜を覗き込んだように怪しく蠢く『紫』の瞳。獣とも人とも着かぬ不浄の輝き。
恐怖からか、動揺からか。弥月は聖の手を勢い良く振り払った。その勢いに数歩退く聖。同時に投げ捨てられた刀が彼女の足元に転がった。
弥月は振り払った手をそのまま自身の胸に押し付ける、更にその手の手首をもう一方の手で握りこむ。
ない、ないのだ。胸にも、手首にも、どこにも心拍が、心音が、脈動が。
人間である証が。
「そんな……あれは」
「夢じゃないわよ」
簡潔だ。やはり事実だけを告げられた。辿り着かないようにしていた事実だけに。
「なんで!? あんたは!?」
「なんでって? こうした方が話が早いかなと思って」
「そうじゃない! そうじゃなくて…」
作品名:TheEndlessNights(1) 作家名:卯木尺三